ESGの観点からみる中国の雄安新区開発途上国におけるグリーンフィールド型スマートシティ開発への示唆
1.はじめに
近年、AI、5Gや自動運転等の先端技術の実用化が進むなか、国内外においては一種のブームと言えるほどスマートシティに対する注目度が高まっている。UBS証券株式会社によれば、世界のスマートシティ市場の規模は2025年に2兆米ドルまで成長し、アジアが全体の40%を占めると予想されている1。
スマートシティは大きくブラウンフィールド型とグリーンフィールド型に分類できる。ブラウンフィールド型は既存市街地のスマート化を進めるものであり、国内で進められているスマートシティ開発の大半はブラウンフィールド型である。一方でグリーンフィールド型は未開発または低開発地域で新規に都市開発を行い、そこにスマート技術を導入するものである。グリーンフィールド型スマートシティの代表例として、トヨタのWoven City(ウーブン・シティ)や中国の雄安新区が挙げられる。都市基盤が相対的に脆弱な途上国においては、グリーンフィールド型スマートシティが今後の主流になると考える。
地球温暖化や経済格差の拡大などのグローバルな課題が深刻化する中、人々の生活から社会全般まで、持続可能性を担保することが求められている。スマートシティ開発(とりわけグリーンフィールド型開発)は経済だけでなく環境及び社会の側面においても開発地域ないしその周辺地域に多大な影響を与えるため、マスタープランから開発過程に至るまで持続可能性の視点を取り入れることが重要である。
本稿では、グリーンフィールド型スマートシティの代表例である中国の雄安新区に着目し、同新区における主な開発状況を紹介するとともに、関連の取組をESGの観点から評価することを試みる。雄安新区はまだ開発の初期段階にあることから網羅的に評価することが難しいが、途上国におけるスマートシティ開発の持続可能性を考える際に、本稿がわずかでも参考になれば幸いである。
2.雄安新区におけるスマートシティ開発
(1)スマートシティ開発の概要
雄安新区は、中国の主要な経済圏である京津冀(北京市・天津市・河北省)地域の共同発展と、北京の非首都機能2を他地域に分散・移転させることを目的に、河北省雄県、容城、安新3県と周辺の一部地域を新区として開発するものである。雄安新区の開発は、深圳経済特区や上海浦東特区に次ぐ非常に重要な国家戦略に位置づけられている。
図表 雄安新区の概要
地理的範囲 | 河北省雄県、容城県、安新県3県及び一部周辺地域 |
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経済規模 (2016年時点) |
約3,200億円(雄県:101.14億元、容城県:40.01億元、安新県:59.4億元) |
計画面積 | 1,770㎢(うち、初期の開発面積は約100㎢) |
人口 | ・2021年1月末時点:約129万人 ・計画人口(長期):200~250万人 |
(注釈)経済規模については1元=16円で換算した。
(資料)各種公開情報より筆者作成
図表 京津冀区域空間構造
(資料)河北雄安新区計画綱要
雄安新区の開発においては、7つの重大ミッションが設定されている。また、この重大ミッションを踏まえ、雄安新区の開発計画に当たる「河北雄安新区計画綱要」では、2035年までに人間と自然が共生するハイレベルなスマートシティを建設することが目標に掲げられ、7つの分野における開発方針が記されている。分野ごとの方針は様々であるが、全体を通して、環境保護・環境負荷の低減や良質な居住・就業環境の実現、ハイエンド・ハイテク産業の発展が目指されていることが読み取れる。
図表 雄安新区における7つの重大ミッション
① 環境にやさしい新たなスマートシティを建設し、世界トップクラスのスマートシティを築き上げる
② 美しい生態環境をつくり、水と都市が融合したエコシティを建設する
③ ハイエンド・ハイテク産業の発展によるイノベーションを積極的に受け入れ、新たな原動力を育む
④ 質の高い公共サービス・公共施設を提供し、都市管理の新しいモデルをつくる
⑤ 便利で効率的な交通ネットワークを構築するとともに、環境に配慮した交通体系をつくる
⑥ 制度改革を推進し、資源配分において市場が決定的な役割を果たせるよう、その活力を引き出す
⑦ 外部と協働するための拠点とプラットフォームを構築する
図表 河北雄安新区計画綱要に示された分野別の方針(一部要約・抜粋)
分野 | 主な方針 |
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空間配置 | ・「一主、五輔、多節点」の考えに基づき、配置計画を実行する (一主:先行的に開発するエリア(起歩区)/五輔:先行的に開発するエリアの外周に位置する雄県、容城、安新県、寨里、昝崗という5つのエリア/多節点:大規模な不動産開発を禁じる町村) |
生態環境 | ・白洋淀の生態系を回復させるほか、国家公園や大規模な人工造林を建設し、美しい生態環境を創出する |
産業配置 | ・都心部は北京から移転してきた企業の事業部門や大学等のハイテク産業を集積させ、郊外には軍需、農業、生態環境等を特色とした産業の集積を図ることで、都市部と郊外部が共同発展するための産業構造を形成する |
公共サービス | ・公共サービスのレベルを向上させ、最新の教育やハイレベルな医療・社会保障等を提供する ・居住空間の配置を最適化し、住宅制度を革新する |
交通ネットワーク | ・スマート交通システムを導入するほか、公共交通機関の利用率やシェア型のスマートモビリティを導入し、交通による環境負荷の低減を図る |
グリーンスマートシティ | ・スマートインフラの建設を強化し、データ管理システムを構築する ・クリーンな熱供給システムやスポンジシティの構築により環境にやさしいインフラを整備する |
都市安全 | ・緊急防災システムの構築や建築物の耐震能力の強化、洪水防止システムの構築を促進し、防災レベルを向上させる |
(資料)河北雄安新区計画綱要より作成
(2)「環境」に関わる取組
雄安新区はその構想段階から環境配慮の考え方が取り入れられている。2018年に公表された「河北雄安新区計画綱要」は雄安新区において美しい生態環境を創出するという方針を示している。この方針に基づく取組としては大きく白洋淀(面積約366㎢の湖)における生態系の復元、グリーンベルトの整備、環境汚染対策という3つのカテゴリーに分類することができる。このうち、特に進展が見られたのは白洋淀の水質の改善及び「千年の秀林」という植林プロジェクトである。
図表 環境面の取組に関する主な計画内容
カテゴリー | 主な計画内容 |
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白洋淀における生態系の復元 | ・保水機能の強化による水資源の確保 ・水質の改善 ・白洋淀国立公園の建設 ・生態系の保全におけるインテリジェント技術の導入 |
グリーンベルトの整備 | ・大規模な植林(例:「千年の秀林」プロジェクト)による二酸化炭素の吸収能力の強化及び生物多様性の保護 ✓ 目標森林率:40%(計画時:11%) ・都市公園の整備や道路の緑化等 ✓ 目標緑被率:50% |
環境汚染対策 | ・自動車排出ガス規制の強化 ・グリーン電力の使用 ✓ グリーン電力を域外から調達することを中心にしつつ、区内でも再生可能エネルギーで発電する ✓ 長期的には沿海部の原子力発電からの電力調達も視野に入れる ✓ 電気自動車をも電源として活用する ・クリーン熱源の使用(石炭利用の廃止) ✓ 区内全域をカバーする天然ガスの供給システムを構築する ✓ 長期的にはよりクリーンなエネルギー源で代替する ・スマートエネルギーシステムの構築 ・ゴミの分類・処理システムの構築 ・廃棄物規制の強化 |
白洋淀は中国華北地域の最大の淡水湖であるが、生活排水や産業排水等の影響により水質が著しく悪化していた。2017年時点で白洋淀の水質は中国水質基準の最低ランクよりも低い「劣V類」であった。雄安新区の設立以降、白洋淀における水質汚濁対策3や他地域からの引水などの取組が行われた結果、主要な汚染物であるアンモニア、各種リン化合物に含有されるリンの総量の濃度が低下した。2020年、白洋淀の水質は全体で「Ⅳ類」まで改善し、一部のエリアでは飲用水に使用可能な「Ⅲ類」まで改善した。
「千年の秀林」プロジェクトについてみると、2017年から2021年4月にかけて、約200種類・2,000万本の植林が行われた。植林面積は約41万ムー4(約273㎢)に上る。こうした大規模な植林活動を通じて、雄安新区は先進国並み5の森林率の実現を目指している。
雄安新区における環境面の取組の中で特に注目に値するのはインテリジェント技術の活用である。白洋淀の水質の改善にあたって、雄安新区は電動水質観測船を導入している。同観測船は無人運航船とドローンを搭載できるほか、サンプルの自動採取・自動検査分析にも対応できる。また、「千年の秀林」プロジェクトでは「雄安新区森林ビッグデータ建設・管理プラットフォーム」という管理システムが構築され、同システムを活用した樹木のライフサイクル管理が行われている。同システムでは樹木ごとにID とQRコードが付与されており、樹木の品種、産地、位置情報、樹径、高さや管理者情報等が保存されている。システムの地図機能を使って樹木ごとの情報を視覚的に把握することも可能である。作業員等はQRコードを読み取るだけで樹木の情報を把握することができるため、維持管理の効率が高まる。
これらのインテリジェント技術の導入は省力化や無人化等の効果をもたらすことが期待できる。しかし無人運航船とドローンを活用した環境遠隔監視をはじめ、雄安新区をフィールドとして試験的に導入されている取組もあるため、今後の他地域への横展開に向けては費用便益に関する検証が求められる。
(3)「社会」に関わる取組
本稿では、雄安新区の開発における「社会」に関わる取組として、住民の立ち退き・移転事業を取り上げたい。
雄安新区の都心部に設定された地区では、2019年5月以降、対象と期間を3回に分けて住民の立ち退き・移転事業が進められており、2020年末までに約7.75万人が立ち退いた。容東エリアにおける第一期約2万戸の立ち退き者向け住宅は2021年6月末から順次引き渡しが行われる予定である。
ESGの観点からこうした非自発的住民移転を評価する際、立ち退き対象者への補償は重要な論点となる。例えば、世界銀行のセーフガード政策では、非自発的住民移転を伴うプロジェクトの実施主体者に対し、立ち退き対象者が以前の生活水準や収入機会等を改善または回復できるよう、土地や金銭による損失補償や移転先でのコミュニティ再建につながる支援を行うことを求めている。雄安新区の開発は重大な国家プロジェクトとして国内外に広くアピールされるものであることから、立ち退き対象者への補償は避けて通れない。
雄安新区における立ち退き対象者に対する主な支援は、住宅・土地等の収用に対する補償と社会保障等の充実の2つに大別される。
まず、住宅・土地等の収用に対しては、土地、家屋、事業用物件等の対象別に単位面積または立ち退き人数当たりに設定された単価に基づき補償が支払われる。また、都心部の開発と並行して移転先の代替住宅も整備されており、立ち退き対象者は代替住宅に移転するか、代替住宅には移転せずに追加的な補償金を受け取るかを選ぶことができる。これらの金銭的補償や現物支給によって、立ち退き対象者の損失補償と移転先の確保が講じられている。
立ち退き対象者への社会保障等についてみると、まず、年金加入に係る補助の交付や保険・医療制度の整備などの基本的な保障の充実が図られている。中国では、日本と異なり、地域ごとに戸籍に応じた社会保障が整備されている。経済水準が比較的高い者に比べ、農民や社会的弱者層に対する社会保障の普及の遅れが課題とされている。雄安新区における立ち退き・移転事業では、立ち退き対象者の戸籍を農村戸籍から都市戸籍に変更することに加えて、年金保険の補助等を行うことで、最低限のセーフティーネットを整備する狙いがあると思料される。これにより立ち退き対象者の生活の安定化につながる可能性がある。
これに加えて、立ち退き対象者向けの高度な職業訓練の提供や就職イベントの開催、並びに教育・育児に関する支援・補助の提供が計画されている点は特筆すべきである。雄安新区の都心部に位置付けられている地域では、ITや金融等のハイエンド・ハイテク産業の移転・集積やイノベーションの創出が目指されており、産業構造は大きく変化していくことが予想される。雄安新区では、新たな産業に携わる人々を誘致するのはもちろんのこと、それらを支える建設業や製造業等の雇用も拡大させており、立ち退き対象者やその子どもの希望や能力に応じて職業訓練や技術に関する専門教育の機会を提供することで、就業機会の拡大を支援している。合わせて、創業指導や小口資金貸付など立ち退き対象者向けの起業支援も行っている。さらに、自力での就職先の確保が難しい立ち退き対象者に対し、雄安新区は対象者のスキルと希望を踏まえて最低賃金水準の仕事を提供することとしている。つまり、雄安新区では、立ち退き・移転事業によって従来の農地を失った立ち退き対象者やその子どもが、新たな産業構造の中で収入機会を再構築できるよう様々な支援がなされているのである。
以上の通り、雄安新区開発における住民の立ち退き・移転事業においては、立ち退き者に対して様々な補償と支援策が講じられている。しかし、立ち退き対象者の新生活は始まったばかりであり、これらの補償と支援策の効果を直ちに評価することが難しい。今後は北京などの他都市からの転入者も増えると思われる中、立ち退き対象者のコミュニティ及び生活の再建や他都市からの転入者との経済的な格差の是正が「絵に描いた餅」で終わらずに実現できるかという点には注目していきたい。
(4)「ガバナンス」に関わる取組
雄安新区では、世界をリードするデジタル都市の構築(デジタル都市化)を掲げ、水道や電気、道路などの都市基盤の整備や維持管理をICTによって効率化するスマートインフラの配置やリアルタイムでの制御を行う管理システムの導入、ビッグデータを活用した建築物等の公共資産管理システムの運用、さらには雄安新区全体のあらゆる情報を集約・学習し、都市の維持・運用に適切な対応を実施するための都市全体でのディープラーニング機能の確立など、都市のスマート管理の実現に向けた様々な取組を実施している。これらの取組を支えるのが、IoT等の技術を活用した「1センター、4プラットフォームによる都市情報の一元集約・管理システム」(以下「集中管理システム」という。)である。
集中管理システムでは、エッジコンピューティング6とスーパーコンピューティングを組み合わせた「スーパークラウドコンピューティングセンター」(以下、「雄安都市コンピューティングセンター」という。)を中心に、①都市の建物やインフラ等物理的な空間構成や建築審査等のすべてのプロセスのデジタル化、②ビデオシステムの導入・管理、③建築物、インフラ、設備等、雄安新区を構成するすべての構造物へのセンサーの設置とデータ共有、④行政データの管理や各情報へのアクセス管理を行う4つのプラットフォームによって構成されている。
図表 1センター、4プラットフォームによる都市情報の一元集約・管理システムの概略
都市のあらゆるデータを集約することで、データ(根拠)に基づく都市開発・計画を進められることができるほか、情報の一元化により情報の所在や管理体制が明確化されていることから、高度な都市の運用・維持管理機能が期待できる。また、AI技術やブロックチェーン技術を活用して膨大な都市データを取り扱うため、より短期間で集中管理システムの高度化を図ることが可能である。さらに、市中に監視カメラを高密に設置する「ビデオプラットフォーム」の導入により生活の安全・安心に係る情報をリアルタイムで収集・分析することで、事件・事故対応の効率化、災害対応、復旧・復興の迅速化等が期待できる。
集中管理システムは都市の運用・維持管理、課題解決に対して有用である一方で、様々な課題やリスクも存在する。
システム構築段階においては、インターフェースがかかる課題の1つである。都市のあらゆる情報を一元集約・管理するには、共通のインターフェースを定めることが必要となるが、建物や設備等、中国国内製品では機能が不十分な場合などに、国際シェア及び実績の高い海外企業製品を使用することとなる。この際、当然のことながら各製品は企業ごとのインターフェースを有しているため、相互接続や製品のアップデートの課題が生じ、新区仕様のインターフェースとするよう各企業の協力を求めなくてはならない。
また、システム運用・維持管理段階においては、計画・開発、運用、維持管理と、これまで類を見ないほど膨大かつ複雑な都市情報の処理が必要となるため、超高度なコンピューティングシステムの導入に加え、超高度な情報処理モデル及びサイバーセキュリティシステムの開発が不可欠となる。雄安新区ではエッジコンピューティングを活用した分散型のプラットフォームを導入しているものの、2022年に運用開始を目指す雄安都市コンピューティングセンターで情報の複雑な集中処理を行うため、オーバーフロー等が生じた場合、あるいはサイバー攻撃を受けた場合に都市機能が全停止するリスクを排除できない。さらに、こうしたデータの収集・利用の範囲やプライバシーへの配慮、使用者の権限や義務等に関する規定が必ずしも十分に開示されていないこともあり、運用上の不透明性に関する懸念も課題として挙げられる。
今後、雄安都市コンピューティングセンターの運用においては、情報集約・管理システムの開発に加えて、情報利用で生じるリスクをどのように低減させるかがポイントとなるだろう。前述のような課題を解決し、超高度なデジタル都市化が実現すれば世界でも類を見ないスマートシティが誕生することになる。
3.途上国におけるグリーンフィールド型スマートシティ開発への示唆
最後に、雄安新区の取組を踏まえて、途上国におけるグリーンフィールド型スマートシティ開発への示唆を3点挙げる。
(1)途上国における大都市問題の新たな処方箋
課題解決志向型開発という点において、雄安新区の開発は日本をはじめとする先進国で行われているスマートシティ開発と共通している。ただし、一都市ではなくメガリージョンの課題解決を念頭に置いているのは雄安新区の開発の特徴である。
途上国においては、都市化の進展に伴って数多くのメガシティが誕生した。しかし、都市のキャパシティを上回る人口の流入が環境汚染、交通渋滞、スラム化や治安の悪化等の問題(いわゆる大都市問題)をもたらすことは数多くの研究で指摘されている。「住み続けられるまちづくりを」というSDGsの目標の実現に向けて、途上国における大都市問題への対応は不可欠である。
雄安新区の開発は、スマートシティ開発を通じて地域を活性化するだけでなく、様々な大都市問題を解決するというモデル的な試みであると言える。雄安新区の開発に係る成功経験は大都市問題に悩む途上国にとって新たな処方箋になり得る。
(2)明確なビジョンに基づくスモールスタート
グリーンフィールド型スマートシティは長い開発期間を要するだけでなく、開発にあたっては目標人口規模の設定、インフラ整備や産業誘致など様々な課題に直面することになる。開発を成功裏に進めるためには、明確なビジョンを持つことが重要であるとともに客観的な根拠に基づく事業の立案と実行が求められる。
また、スマートシティ開発にあたっては、資金確保の問題、技術の陳腐化や人口移動の不確実性等のリスクを伴う。特に途上国はこれらのリスクに対応する能力やリソースが不十分である場合があるため、雄安新区のように最初は開発範囲を限定するなど、スモールスタートで開発リスクの低減を図ることが望ましい。
(3)ジェントリフィケーションへの対応検討
ロンドンやサンフランシスコなどの大都市では、再開発によってジェントリフィケーション7と呼ばれる現象が生じたことがしばしば指摘されている。グリーンフィールド型スマートシティ開発においても、ジェントリフィケーションが起こる可能性は十分にある。低所得者層の住民が開発によって生活の場や手段を奪われる可能性を念頭に置き、一時的な金銭的な補償にとどまらず、住居や就労機会の提供を含む対応策を検討・実施することが重要である。
1 UBS AG「変わりゆくアジア:スマートシティ」(2019年3月)
2「京津冀協同発展計画綱要」(中国共産党中央政治局、2015)によれば、非首都機能とは、エネルギー消費量の高い産業、地域レベルの物流拠点等の一部のサービス産業機能、教育、医療、研修機構等の社会的サービス機能、一部の行政サービス機構や企業のヘッドオフィス機能等を指す。
3 水質汚濁対策としては、生活排水や産業排水等に関する規制強化、汚水処理能力の向上、ゴミの分別と無害化処理などが挙げられる。
4 中国では古くから使われている土地面積の単位である。現在、1ムーは約666.67㎡に相当する。
5 40%という目標森林率は東京都の36%(2017年3月31日現在)をやや上回る水準である。
6 エッジコンピューティングはデータの分散処理を行う仕組みである。デバイス近くにエッジサーバーを分散設置し、情報処理を実施した上で必要情報のみクラウドに集約させることで、情報処理速度が速くなるほか、情報処理負荷も軽減される。従来のクラウドは、デバイスからクラウドへ情報を集約する場合に、デバイスから多くの情報が集積され、その上でクラウドにて処理を実施する必要があることから、情報処理に遅延や不具合等が発生していた。
7 ジェントリフィケーションとは、低所得層の居住地域において再開発が行われた結果、都市環境の改善とともに中高所得者層が流入する一方で、低所得層が物価の高騰等によって当該地域からの転出を余儀なくされる現象を指す。
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