コロナ禍における新たな「子どもの第三の居場所」とは?ポストコロナ時代における地域政策の展望 シリーズ
本稿では、困難を抱える子どもを包括的に支える地域の場として、コロナ前から普及の兆しを見せてきた子どもの第三の「居場所」に着目する。コロナ禍によってこれまでと異なる運営を余儀なくされながらも、様々な努力・工夫により子どもや家族を支えている現場の姿を見ていくことで、新たな子どもの「居場所」像を探っていきたい。
まずはコロナ禍における、子どもとその家族を取り巻く困難の諸相から紐解いていきたい。
1.子どもの権利から見た、コロナ禍における子ども・家族の困難
コロナ禍に進んだ「子どもファースト」の政策潮流
2021年は子どもたちにとって、新型コロナウイルス感染の急拡大に伴う健康への影響、そして長引く学びの機会喪失に伴う育ちへの影響がさらに色濃くなった年となった。
同じ年、政府では「子どもをまん中においた社会づくりへの大きな一歩として、一元的に子どもの行政を扱う行政組織『子ども庁』の創設1」を目指す動きが本格化した。
「子どもをまん中」や「Children First」を謳う政策潮流は2016年の児童福祉法改正に立ち戻ることができる。児童福祉法第1条に「全て児童は、児童の権利に関する条約の精神にのっとり」と、はじめて子どもが権利の主体として位置づけられたことに加え、第2条には「社会のあらゆる分野において子どもの意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮されるよう努めること」が明記されたことで機運醸成が加速したと考えられる2。その後、2019年には「児童虐待防止対策の強化を図るための児童福祉法等の一部を改正する法律」が成立し、子どもの権利擁護、そして意見表明権を保障する仕組みの検討が進められることとなった。
このように、子どもの権利を中核に据えた議論が進み始めている中、改めて「子どもの権利条約」3(児童の権利に関する条約)について確認していこう。子どもの権利条約は子どもの基本的人権を国際的に保障するために定められた条約で、1989年の国連総会で採択され、日本は1994年に批准している。子どもの権利条約には4つの原則として差別の禁止(第2条)、子どもの最善の利益(第3条)、生命への権利(第6条)、意見表明権(第12条)が設定されている。この原則以外にも40の権利が定められ、この中には後述する教育への権利(第28条)、休息、余暇、遊び、文化的・芸術的生活への参加(第31条)も含まれている。いずれも生きていくうえで欠かせない重要なものである。
コロナ禍における子ども・家族の困難
しかし、冒頭に述べた新型コロナウイルス感染症の影響を受け、日本、そして世界の子どもの権利は大きく侵害されることとなった。2020年4月、国連子どもの権利委員会は、COVID-19パンデミックが子どもたちに及ぼす重大な身体的、情緒的および心理的影響について警告するとともに、各国に対し、子どもたちの権利を保護するよう求める声明4を出した。声明の中では、「子どもたちが休息、余暇、レクリエーションおよび文化的・芸術的活動に対する権利を享受できるようにするための、オルタナティブかつ創造的な解決策を模索すること」、「オンライン学習が、すでに存在する不平等を悪化させ、または生徒・教員間の相互交流に置き換わることがないようにすること」等が指摘されている。
このうちオンライン学習については、日本でも2020年春先の相次ぐ学校休業措置を受け、経済産業省による学校休業対策「学びを止めない未来の教室」のサイトでは、「100を超えるIT企業が教育プログラムの『無料サービス』を提供」5したり、文部科学省においては2019年に打ち出した「GIGAスクール構想」を加速させ、児童生徒一人当たり一台のコンピュータ環境を整備したりといった動きがみられた。
ただし、「この政策と学校の現実は乖離して」いるとの指摘6もあり、実際に文部科学省が調査した結果(令和2年4月16日時点7)では同時双方向型のオンライン指導を通じた家庭学習を実施できた教育委員会は5%に留まっていた。
また、授業だけでなく個別の連絡についても、同時双方向型のオンラインシステムを通じた連絡は5%にとどまり、一斉電子メールによる連絡の82%と大きな開きがあった。これは、コロナ禍において、子どもと教員との間の相互の意思疎通を図る機会が奪われている可能性を示唆している。
この点に関して、高校生760名を対象としたインターネット調査8では、教員とのコミュニケーションができていると回答した割合は全体で38%にとどまり、「元気がないときに励ましてくれる人がいない」と回答した割合は21%という結果となった。さらに1割は、雑談して笑いあえる人なども含め、ソーシャルサポートがまったく得られない状態にあることが分かった。加えて別の調査9では、週の数日以上自傷行為をする高校生が13%と報告されている。コロナ禍における子どもたちは、教育を受ける権利が保障されないどころか、孤立を深め、生命の権利さえも危ぶまれる状況を迎えているのではないだろうか。
既往文献10では、「休校措置によって学校の福祉機能が『とまった』」こと、そしてこのことが「生活の最も基本的な条件が根本から揺らぐ、ということを意味している」ことを指摘している。「学校休業というビジネス・チャンス11」に民間企業による無料のオンライン「学習」コンテンツの提供が加速している時、同じ日本で「学習以前の安心・安全が脅かされた状態で日々を過ごさざるを得ない子どもたち12」が生み出されている状況がある。
2.居場所支援とコロナ禍
子どもの権利を保障する包括的な支援にとっての”居場所”の重要性
ここまで述べてきたように、新型コロナウイルスの影響は、子どもの教育への権利どころか、休息、余暇、遊び、文化的・芸術的生活への参加に係る権利、そして生命への権利さえも危機にさらすまでに及んでいる。一方で、コロナ禍以前から、特に社会的に不利な立場に置かれた子どもたちに対する権利の保障を中核とする包括的な支援に積極的な役割を担ってきたのが、いわゆる「居場所支援」と呼ばれる取組である。ここでは、居場所支援の概要について整理するとともに、こうした居場所支援の拠点も、コロナ禍において変化、対応を余儀なくされていることについて述べていく。
子どもの「居場所」とは、広義の意味では自身の主観においてまさに「居場所」と感じられる空間、関係性と捉えられるが、狭義の意味においては、「家でも学校でもなく自分の居場所と思えるような場所」13として、そうなることを意図して行政や民間・地域団体等が地域の中に設けた場所・空間のことを指す。狭義の定義においても、子ども自身の主観的な実感(=自分の居場所と思える)に根ざしていることからも、こうした居場所における支援は本質的に特定の活動や時間の使い方に限定されない多様な形態を取っており、食事提供による生活支援機能を有するいわゆる「子ども食堂」や、個別伴走的な学習支援機能を有するいわゆる「寺子屋」等(名称はこれ以外にも多様)、人と人との関わりを通した様々な支援が子どものニーズに即して行われている。またこうした支援は、家庭の貧困等、社会的に不利な立場に置かれ、家庭以外の場でも生活・学習面等の支援を要する子どもを優先的な対象として行われることも多い。
居場所の持つ機能としては、単純化を恐れずに言えば、支援が必要な子どもとの「出会い・繋がり」を通して適切な支援、機関等に繋げていく、地域の子ども包括支援体制のハブとなる機能(①子どもと繋がる機能)、居場所での生活自体が、子どもの学びや育ちを支えていく機能(②子どもを支える機能)、の主に2つの観点から整理できるように思われる。
①に関しては、居場所は特定の活動内容だけに限定されない広い門戸を有していること、またそうした性質も活かして、行政の幅広い関係部局との情報共有・連携体制を構築したり、積極的なアウトリーチを行ったりすることにより、多様な子どもと繋がるための強みを有していることが指摘できる。また、居場所によっては対象年齢等を広く取っており(小学生~高校生まで、高校中退者も対象とするなど)、学校段階が変わったとしても、切れ目なく子どもを見取り、支え続けられるという点で、「繋がり続ける機能」も期待される。
②に関しては、居場所での生活それ自体や、そこで紡がれる対人関係の中で、後述するような子どものいわゆる「非認知能力」が育まれることが期待されている。例えば、「食卓を囲む」「誰かと一緒に入浴する」ことにより、基本的な生活習慣、衛生感覚を身につけるといったことから、友達同士の交流や、支援者である大人との日常的な交わり、体験活動を通して、自己肯定感、他者とコミュニケーションする力、やり切る力、先を見通す力など、様々な非認知能力を育んでいくことが期待され、実践されている。例えば、「子ども第三の居場所」という名称で全国に51拠点(2021年8月時点)をパートナー団体とともに展開している公益財団法人日本財団では、居場所で育まれる力を「生き抜く力」と表現して下図の通り整理している14。
なおここで急いで補足しておきたいのは、居場所の「子どもと繋がる機能」「子どもを支える機能」と表現した上記の取組や居場所の生活では、決して子どもが「繋げられる」「支えられる」だけの客体と見做されているわけではないという点である。子ども同士でケアしあう関係性や、時として支援者である大人自身も子どもにケアされる対等、互恵的な関係性の中で、子どもの自律的な生の基盤が育まれているところも、居場所の特徴であると言える。
図表1 居場所で子どもに育まれる力
出典)公益財団法人日本財団HP
こうした居場所の在り方、機能、強みは、厚生労働省が推進する「地域共生社会」の実現に向けて、必要とされる対人支援のアプローチと軌を一にしている。対人支援において今後求められるアプローチは、下図のように、具体的な課題解決を目的とするアプローチに加えて、つながり続けることを目的とするアプローチが重要とされる。また、その共通の基盤として「”伴走”する意識」が求められる。子ども支援の拠点としての居場所は、まさに子どもに対して「つながり続けること」を志向し、かつその中で伴走支援的に、具体の課題解決に向けて地域の諸資源と子どもを適切に繋げていく可能性を有している。
図表2 対人支援において今後求められるアプローチ
出典)厚生労働省(2019)「第2回地域共生社会に向けた包括的支援と多様な参加・協働の推進に関する検討会」(令和元年5月28日)資料
なお、まさにこうした子育て家庭への「包括的支援体制」の構築に向けて、厚生労働省では、令和4年度予算概算要求において、「家庭や学校に居場所がない学齢期以降の子どもに対して、居場所を提供し、生活習慣の形成や学習のサポート、進路等の相談支援、食事の提供を行うとともに、必要に応じて子ども・家庭の状況をアセスメントし、子ども一人一人に 寄り添った支援計画を策定する等、子どもの居場所に関する支援をモデル的に実施する事業」として「子どもの居場所支援モデル事業」の創設を要求している15。こうした潮流が本格化することで、全国的に、子どもの居場所拠点が拡大していくことが期待される。
コロナ禍による居場所支援への影響
コロナ禍において子どもたちの「つながり」が脅かされている状況だからこそ、居場所支援の必要性が増しているが、その一方で居場所支援自体もまた、人と人との「空間を共にする」つながりを基盤としているがゆえに、新型コロナウイルスによる影響を大きく被っているのが実態である。
例えば、認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえが全国の子ども食堂運営団体を対象に実施している「子ども食堂の現状&困りごとアンケートVol.516」(調査期間:2021年6月23日~7月4日、公表日:2021年7月16日)によれば、子ども食堂の開催形態について、「これまで通りみんなで一緒に食べる」とした団体は11.0%に留まり、代わりの活動として、お弁当や食材の配布が行われていることが分かる。また、子ども食堂の非開催理由(複数回答)として、「感染防止の対応が難しいため」(69.6%)「活動場所が利用できないため(閉館、用途制限等)」(27.5%)、「自治体から自粛・中止を求められているため」(16.5%)等が多くなっており、新型コロナウイルス感染拡大期の居場所拠点の運営の難しさを反映している。こうした状況は感染収束とともに改善していくことは期待されるものの、子ども食堂の再開時期の見通しについて、「2月以降を予定」(2022年2月以降。引用者注記)とする回答者が25.6%とその割合が高くなっており、依然として見通しは不明確であると言える。
全国的な居場所拠点拡大に向けた機運を捉え、子どもの包括的支援体制を確固たるものにしていくためには、現状のコロナ禍においても、子どもと「つながり続ける」「支え続ける」あり方を模索し続ける必要がある。
3.コロナ禍における様々な居場所支援
コロナ禍においても、自治体や民間団体を含め、様々な場所で子どもの居場所支援の取組は続いている。本項では、特定非営利活動法人子どもNPOセンター福岡、認定特定非営利活動法人カタリバ、特定非営利活動法人Learning for Allへのインタビューを通し、明らかになった子どもの実態や各団体の取組内容等の紹介を通して、コロナ禍における居場所支援の実態と可能性に迫っていく。
図表3 インタビュー先団体概要
・特定非営利活動法人子どもNPOセンター福岡(以降、NPOCCF)
(2021年9月8日インタビュー実施)
虐待や貧困、いじめなどから子どもを守り、子どもが尊重される社会を作るため、市民の交流事業や調査研究、子どもサポート事業などを行う。
・認定特定非営利活動法人カタリバ(以降、カタリバ)
(2021年9月21日インタビュー実施)
貧困、不登校、災害、さまざまな環境下にいる子どもへの様々な教育支援を行うNPO団体。コロナ禍においてはいち早くオンラインによる居場所と学習の支援を行う「カタリバオンライン」を開始したほか、学習支援に限らない生活支援を行う「キッカケプログラム」も開始。
・特定非営利活動法人Learning for All(以降、LFA)
(2021年9月7日インタビュー実施)
生きづらさを抱える子どもの学習支援や居場所支援に広く携わるNPO法人。取材日現在、東京都葛飾区、板橋区、埼玉県戸田市、茨城県つくば市における子どもの居場所拠点の運営を担う。
ブラックボックス化する子どもたち
様々な形で子どもたちを支援してきた各団体だが、コロナ禍においては、子どもたちの新たな困難が生じているという。
ーNPOCCF:当団体では、福岡市の委託を受けて、中高生を中心とした子どもたちが誰でも気軽に寄り、安心して自由に過ごせる場、「フリースペースてぃ~んず」を運営していますが、コロナ禍で活動を制限せざるを得ませんでした。以降は、当団体に関連するNPOの実態も踏まえ、現状を紹介したいと思います。
まず、コロナ禍になって、子どもたちは自分たちの想いを口に出せなくなってきているように感じます。大人へ対する不信感もありますが、この状況の中、「大人も大変だから」という遠慮が生まれているのかもしれません。
以前、当団体に関連するNPOでは、平日19~21時くらいまで、公園や街中で居場所を求めて彷徨っている子どもたちに声をかけて、話を聞いたり、必要があれば支援につなげたりする活動を行っていました。ただ、今は公園も封鎖されており、彼ら・彼女らは今どこにいるのだろうかと心配しています。
ーカタリバ:従来の居場所支援では行えていた「食卓を囲む」ことが制限されているので、子どもたちの“こ食”を防ぐことが難しくなりました。また、居場所に来られないことで、子どもたちにとって頼れる場所が減ってしまい、危険な大人とつながってしまうのではないかという心配もあります。
コロナ禍の課題として、やはり一番はリアルな居場所で補っていた生活支援に課題を感じましたね。
ーLFA:コロナ禍になり、子どもだけではなく親や兄弟など、「家族」の中でも様々な問題が生じ得ます。そのため、今まで大丈夫だった家庭が急に深刻な状況に陥ったりすることがあります。
現在はあらゆる場所が人数制限を行っていて、子どもたち自身が居場所の価値を感じ始めているように思います。
人との接触を避けなければならない状況が故に、コロナ禍の居場所支援でできることにはどうしても制約がある。それによって、居場所支援の「繋がる機能」が脆弱化するとともに、これまでグレーゾーンにいた子どもや家庭の困難度が急速に高まったり、居場所に来ることで見えていた状況が見えなくなったりと、支援者からみて心配な子どもたちの状況がブラックボックス化してしまう、という課題が挙げられている。
オンラインを活用した居場所支援
コロナ禍により「困難度の高まり」や「子どもたちのブラックボックス化」という新たな課題も生まれている中、現場では、居場所支援を止めないために様々な工夫や試行錯誤が行われている。中でも、オンラインを活用した居場所支援の取組も出てきている。
ーカタリバ:カタリバでは、「キッカケプログラム」17という、オンラインによる学習・居場所支援にも力を入れています。子どもの貧困は単に学力格差ではなく、そもそも「機会のはく奪」「学ぶ意欲のはく奪」が起こっているのだという問題意識から、オンラインによる学習支援に加えて始めたものです。子どもたちと週1回の面談を行うほか、保護者ともLINEでやり取りするなどオンラインで日々の生活に伴走します。
ーLFA:居場所に十分に来られる環境がなくなってしまった代わりに、訪問支援(アウトリーチ)やオンライン支援を行っています。アウトリーチは、直接接触するために高いスキルを必要とする方法ですが、本当に大変な子どもにリーチができる有効な手段だと感じています。オンライン支援では、ゲームをしながら会話をするようなゆるやかなつながりづくりやオンラインによる学習支援を行っています。
オンライン支援については、次のような効果と課題が指摘された。
ーNPOCCF:オンラインの良い面は、いつでも・どこでも世界中の人とつながれるということです。コロナ禍でオンライン支援が広がったことで、より多様な人々とつながりあうことができるようになったと感じています。
一方で、やはり課題もあります。家にWi-Fiや、デバイスが無いなど、そもそもオンライン支援を受けられる環境にない子どもたちもいます。これは、経済的な理由のほかに、親がオンラインを嫌うといった理由もあります。彼らは、深夜にWi-Fiを求めてコンビニに行ったりもするようで、そのせいで危険に晒されるリスクもあります。
また一方で、不登校のフリースクールにおいては、不登校の子どもがいる家庭への支援が行いやすくなったということで、オンラインのメリットがあったと聞いています。例えば、これまで子どもの母親としか話をできていなかった家庭で、オンラインになったことで、両親と子ども、家族全員で話ができるようになり、家族それぞれの言い分が見えるようになったといいます。
ーカタリバ:従来の居場所支援では、子どもたちの支援が中心でしたが、オンラインは保護者サポートをするという観点から有効だと感じています。フルタイムで働くシングルマザーの家庭をはじめ、対面で会う時間がない人や心理的な辛さがある人にとっては、オンラインでコミュニケーションを取ることができるのは貴重な機会となります。保護者とは、日々の些細な出来事もLINEでやりとりができるようになっており、子ども支援に対する協力的関係を築くことができています。
また、子どもにとっても有効な面があります。いじめや過去の不登校体験から顔出しが辛いという子がいますが、そのような子にとっては、画面オフでの会話やチャットが、心理的安全性を保ったまま会話ができる、有効なコミュニケーション手段となります。ただし、アダチベースでの取組に関しては、オンラインだけで解決するのではなく、必要に応じて「オフラインの場につなぐ」ということも心に留めています。まずはオンラインできっかけをつかみ、その後オフラインで支援していくという形が1つ見えてきました。
ーLFA:オンラインでの学習支援を行っていますが、どうしても学習の進みは遅くなってしまうなと感じています。オンラインで学習支援をする場合は、手元が見えないなど、テクニカルな面で課題があります。子どもが、今どこに躓いているのかを随時確認しながら進めなければいけないので、どうしても時間や手間がかかります。密なコミュニケーションを行うという点では、画面越しだと質が落ちることは免れないなと感じます。
一方で、人と対面するのが苦痛であり、オンラインの方が、心理的安全性が高い子もいることも事実です。そのような子どもに対してはオンラインでの学習支援を続けています。また、画面越しに家の様子が少し見えることで虐待通告につながったこともあるなど、オンラインならではのメリットも感じています。
4.これからの居場所支援
前述の通り、コロナ禍においてはオンラインによるつながりづくりが行われるなど、新たな居場所支援の在り方が生まれ続けている。活動団体へのインタビューからは、従来の居場所支援(オフライン)とオンラインによる居場所支援のそれぞれに、良さや課題があることも見えてきた。これらを踏まえて、最後にこれからの居場所支援のあり方について考えてみたい。
オフラインの「居場所」でしかできない「食卓を囲む」「顔を見ながらコミュニケーションを取る」といったことは、依然として譲れない価値のあるものだ。一方で、3団体のインタビューにもあった通り、オンラインによってこれまで以上にアプローチしやすくなる層があることも事実である。オンライン支援は、オフラインの居場所に行く前の「ステップ」として、あるいはオフラインの「代替手段」として、その価値を有することが明らかになったのではないかと思う。
インタビューを通して分かったことは、オンラインによる居場所支援は、コロナ禍における一時的代替手段ではなく、アフターコロナにおいても価値を持つ重要な子どもの生活支援の手段だということである。これらの取組を一時的なものや、特定の団体における取組に終わらせず、子どもの居場所支援に関わる多くの自治体においても、取り入れる検討をしていく必要があるのではないだろうか。
重要なのは、これからの居場所支援においては、「オフライン」か「オンライン」どちらか一方を選ぶのではなく、対象や状況に応じて、手段を組み合わせていくことが必要であるということである。例えば、不登校経験のある生徒にとって常に対面による支援が望ましいわけではないのと同じ理由で、「常にオンラインが望ましい」というのもまた極端な考え方であると言える。例えば、広域通信制高校新入生に対するアンケートの結果18によると、オンライン授業や学校からの動画配信など、オンラインによる教育活動への満足度に関しては、不登校経験の有無による大きな差はなかったものの、「『オンライン集会』のみ不登校経験群の方が満足度は低かった」という。「不登校経験のある生徒にとって、多くの同級生と顔を合わせる集会は、たとえオンラインでも苦手意識があったのかもしれない」19と考察されている。「不登校だからオンライン」なのではなく、個人の特性としてオンラインが向く子とそうでない子がいること、あるいはタイミングによってオンラインが良い場合とそうでない場合があることには十分留意しなければならない。どのような状況にある子どもにとっても、複数のメニューが提示され、彼らが自ら「主観的」に心地の良い居場所を選択できるような環境を構築することが、我々大人の役割となっていくのではないだろうか。
編集後記
インタビューの中では、コロナ禍における支援者側のケアの重要性についても指摘があった。支援者は困難の深刻度が増す子どもや家庭の問題に向き合うことに加え、感染症対策という、新たに心配りをしなければならない場面が増えている状況にある。持続可能な居場所づくりのためには、支援者が悩みを吐露できたり、誰かに相談できたりする環境を構築する必要があるということも、心に留めておきたいと思う。
1 https://www.child-department.jp/
4 ARC 平野裕二の子どもの権利・国際情報サイトにおける平野氏の日本語訳を引用
5 佐藤学(2021)「第四次産業革命と教育の未来」(岩波書店)
6 脚注5
7 文部科学省ウェブサイト
続く令和2年6月23日時点の調査では、同時双方向型のオンライン指導は小学校で8%、中学校で10%と伸びはありつつも、依然として低い状態にとどまっている。
8 中原淳監修 田中智輝、村松灯、高崎美佐編著(2021)「学校が「とまった」日」(東洋菅出版社)
10 脚注8。なお、同著では給食に代表される生存保障の機能だけではなく、家族以外の大人や友人との社会的つながりを保障する機能を含むとしている。
11 脚注5
12 脚注8
13 内閣府「国及び地方公共団体による「子供の居場所づくり」を支援する施策調べについて」(令和2年9月30日)
14 https://www.nippon-foundation.or.jp/what/projects/child-third-place(最終閲覧日:2021年10月8日)
15 https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/22syokan/dl/gaiyo-09.pdf
16 https://musubie.org/wp/wp-content/uploads/2021/07/musubie_Q5_sheet_0716.pdf(最終閲覧日:2021年10月8日)
17 https://www.katariba.or.jp/activity/project/kikkake/
18 伊藤美奈子「特集 不登校の今とこれから ポストコロナと不登校」(月間生徒指導 2021年10月号)
19 脚注13
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