コロナ禍による少子化への影響と東京都からの0~4歳人口の流出政府の「異次元の少子化対策」の背景と今後の見通し

2023/01/27 大塚 敬
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1.加速化する少子化とコロナ禍の影響

我が国の出生数の減少は急速にペースが速まっており、図表1に示す通り2015年前後までは10万人減少に10年強を要するペースであったものが、2016年に初めて100万人を下回ってから、わずか3年後の2019年に90万人を大きく下回る86.5万人となっている。このペースはその後も続き、さらにその3年後となる昨年(2022年)の出生数は80万人を下回る見通しといわれている。

こうした状況に対し、岸田内閣総理大臣は2023年の年頭の記者会見で「異次元の少子化対策」に取り組むと表明し、東京都も、2023年度予算案で18歳以下の子ども1人当たり月5,000円の給付金をはじめ少子化対策の強化を表明するなど、国、地方公共団体において、少子化対策の充実強化を図ることが打ち出されている。

図表1 出生数の推移
出生数の推移
資料)厚生労働省「人口動態統計」より作成

このように、少子化が我が国にとって大きな課題として注目されている中で、新型コロナウイルス感染症の蔓延(以下、コロナ禍という)による我が国の出生数への影響が懸念されている。本稿では、こうした動向について、直近の統計データを用いて、我が国全体と、後述する通り0~4歳人口(以下、幼年期人口)の動向に大きな変化が見られる東京都に着目して、「既に生じている変化」と「今後予想される変化」のそれぞれについて分析、整理する。

2.我が国の出生動向へのコロナ禍の影響

(1)コロナ禍の影響下での出生数の推移

■近年出生数の減少ペースが速まっているが、現時点ではコロナ禍で加速したとまでは言えない

コロナ禍の影響が生じる以前から、我が国の出生数は中期的に減少傾向が続いており、コロナ禍の影響を受けた2020年、2021年もこの減少傾向が継続している。しかし、2019年の減少率よりは小さく、コロナ禍により、それ以前よりも減少傾向が明確に拡大したとまでは言えない。

図表2 近年の出生数と対前年増減率の推移
近年の出生数と対前年増減率の推移
資料)厚生労働省「人口動態統計」より作成

(2)出生数減少の要因となる事象のコロナ禍の影響下での動向

出生数の減少の要因は、母親となる年齢層の女性人口の減少と、1人の女性が生涯に出産する子供数の減少に分解でき、さらに後者は女性の婚姻率の動向に強い影響を受ける。我が国においては、これらの動向を表す指標値はいずれも中期的に減少・低下傾向にあるが、コロナ禍の影響度合いはそれぞれ異なる。

■母親となる年齢層の女性人口はコロナ禍以前から減少している

2005年以降の最近15年間、母親となる年齢層の女性人口は大きく減少している。図表3に示す通り、女性が産む子供数を年齢別に見ると、25~39歳が特に多くなっているが、図表4の通り、この年齢層の女性は、2010年以降、人口規模が大きいいわゆる団塊ジュニア(1971~74年生まれの世代)が40歳以上の年齢層に移行し始めたため急速に減少している。この要因は、当然のことながらコロナ禍の影響により変動したということはない。

図表3 母親年齢別出生数(母親千人あたり人数、2020年)
母親年齢別出生数
資料)厚生労働省「人口動態統計」より作成
図表4 出生数の多い年齢層の女性人口の推移(1990年を1とした指数値)
出生数の多い年齢層の女性人口の推移
資料)総務省「国勢調査」より作成

■合計特殊出生率もコロナ禍以前から低下しており、現時点ではコロナ禍でさらに低下したとまでは言えない

1人の女性が生涯に出産する子供数を近似的に表す指標である合計特殊出生率の全国平均の推移を見ると、2018年までの5年間は、1.42~1.45で比較的安定的に推移していたが、2019年に1.36に大きく低下した。その後、コロナ禍以降の2020年、2021年も低下しているが、2018から2019年の低下幅よりは小さく、現時点ではコロナ禍により低下傾向が強まったとまでは言えない。

図表5 合計特殊出生率の推移(図中の数値は全国平均)
合計特殊出生率の推移(図中の数値は全国平均)
資料)厚生労働省「人口動態統計」より作成

■婚姻件数は、コロナ禍以前から減少していたがコロナ禍により減少傾向が拡大している

我が国の婚姻件数は、2013年以降、いわゆる令和婚ブームで一時的に増加した2019年を除けば一貫して減少傾向にあったが、コロナ禍以降の2020年に対前年減少率が大きく拡大した。2021年も2020年よりは改善したものの、コロナ禍以前と比較すると低い水準にとどまっている。

コロナ禍の影響によるさまざまな行動制限により、人と人との交流機会が減少したことは間違いなく、これが異性との出会いの機会減少を招いたことや、将来への不安など、コロナ禍による影響が婚姻件数の減少傾向拡大の一因となった可能性が高い。

図表6 婚姻件数の推移
婚姻件数の推移
資料)厚生労働省「人口動態統計」より作成
図表7 出会いの数の変化<感染症拡大前(2019年12月)との比較>
(未婚者で出会いを探している人)
出会いの数の変化<感染症拡大前(2019年12月)との比較>
注:調査期間 令和3年4月30日~5月11日 総回収数10,128人
資料)内閣府「第3回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」より作成

(3)全国の出生数の今後の見通し

ここまでに整理した通り、足元の出生数の減少はコロナ禍以前から続いているもので、コロナ禍により拍車が掛ったとは現時点では明確には言えない。しかし、母親年齢の女性人口については、今年20歳になる女性が生まれてから我が国の合計特殊出生率は一度も1.5を上回ったことはなく、人口が均衡する水準とされる2.06~2.07を大幅に下回っているため、今後確実に減少し続けることとなる。よって、出生率が大きく上昇しない限り、出生数の減少は当面継続すると見込まれる。さらに、婚姻件数はコロナ禍により明確に減少率が拡大しており、コロナ禍収束後に回復に転じなければ、今後出生率にもマイナスの影響を与える可能性が高い。

3.東京都心部の幼年期(0~4歳)人口の減少

2では、我が国全体の子どもの減少へのコロナ禍の影響について論じたが、コロナ禍により我が国の国内における人口移動にも大きな変化が見られており、この変化の中で東京都の幼年期人口が減少している。そこで、東京都に着目し、幼年期人口の動向への影響について分析、整理する。

(1)コロナ禍の影響による東京都の幼年期人口の減少

■都心部を中心に東京都においてコロナ禍により幼年期人口変化率が大幅に落ち込んだ

我が国全体と大都市圏の各都府県の幼年期人口の動向は、図表8の通り、コロナ禍以前の2018→2020年(各年1月1日の比較、以下同様)で既に減少傾向にあったが、東京都の減少率は比較的小さかった。しかし、コロナ禍後の2020→2022年に東京都の変化率は大幅に低下し、大都市圏都府県はもちろん全国の水準をも下回る水準となった。また、東京都の中でも千代田、中央、港の都心3区において、2018→2020年と比較した2020→2022年の変化率の落ち込みが大きくなっている。

図表8 コロナ禍前後の全国及び大都市圏の0~4歳人口変化率
コロナ禍前後の全国及び大都市圏の0~4歳人口変化率
注)各年1月1日時点の比較
資料)総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」より作成
図表 9 コロナ禍前後の東京都特別区の0~4歳人口変化率
コロナ禍前後の東京都特別区の0~4歳人口変化率
注)各年1月1日時点の比較
資料)総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」より作成

(2)東京都の幼年期人口減少の要因と今後の見通し

■幼年期人口の転出超過の拡大

東京都で特に幼年期人口の減少率が拡大した直接の要因は、親の世代の転入超過数の変化である。図表10の通りコロナ禍にさらされた2020年、2021年は、それ以前と比較して幼年期人口とその親世代に相当する20~44歳のすべての年齢階層で転入超過数の減少や転出超過数の拡大が見られた。

■子育て世代の転出超過数減少の継続と婚姻率の低下により幼年期人口の減少が当面継続する可能性

20~29歳は2022年には転入超過数が回復しており、特に大卒者の就職期にあたる20~24歳はコロナ禍以前の2018年、2019年の水準を上回っている。しかし、30~44歳は2020年以降の転出超過傾向が2022年も継続している。今後、これらの世代にも回復傾向が広がれば東京都の幼年期人口の減少にも歯止めがかかる可能性があるが、就業者の都外への転出の要因の一つと考えられるテレワークは、図表11の通りコロナ禍収束後も継続意向を有する人が多い。このため、短期的にすべての世代でコロナ禍以前の状況に戻るとは考えにくい。

また、前述の通り全国的にコロナ禍の影響を受けたと考えられる婚姻率についても、図表12の通り、東京都では全国と比較してもより大きな落ち込みが見られる。婚姻件数の減少は将来の出生数減少の要因となり、幼年期人口減少につながる可能性が高い。

図表 10 東京都の幼年期及び子育て世代の転入超過数の推移(2018~2022年度)
東京都の幼年期及び子育て世代の転入超過数の推移(2018~2022年度)
注:月別転入超過数の合計、2022年1月~11月は合計値に12/11を乗じた12か月換算の推定値
資料)総務省「住民基本台帳人口移動報告」より作成
図表 11 テレワークの継続意向
テレワークの継続意向
注:調査期間 令和3年10~11月 回収数 総回収数就業者40,000人
出典)国土交通省「令和3年度テレワーク人口実態調査」
図表 12 全国、東京都の婚姻率(対人口千人当たりの件数)の推移(暦年)
全国、東京都の婚姻率(対人口千人当たりの件数)の推移(暦年)
資料)厚生労働省「人口動態統計」より作成

4.今後、急速に顕在化する子どもの減少による影響への対応の必要性

今後、1で触れた国や地方公共団体の少子化対策の強化により、全国の出生率が向上する期待もあるが、母親となる年齢層の女性人口はコロナ禍以前から減少しており、2で触れた通り、今後も減少し続けることが避けられない。さらに、短期的にはコロナ禍の影響による婚姻件数の減少が出生率低下に拍車をかける懸念がある。こうしたことから、政策的努力によってある程度は緩和させることが可能でも、短期間で出生数の減少を抜本的に改善させることは極めて困難である。また、東京都については、幼年期人口と親世代の転出入動向の変化により、他地域を超えるペースで子どもが減少する懸念もある。

子どもが減少することで影響を受ける社会の機能や産業は多岐にわたる。今後、こうした影響が急速に顕在化する可能性が高く、それに伴う変化に適切に対応していくことが地方公共団体や関連団体、産業に求められる。

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