食品ロス×脱炭素(後編)~食品廃棄ゼロエリアの創出に向けて~

2023/02/17 兼澤 真吾、細井 山豊、伊能 健悟、俵藤 あかり
3R
廃棄物
脱炭素
気候変動

1 はじめに

2021年6月に国・地方脱炭素実現会議が公表した「地域脱炭素ロードマップ」において、「食品ロスの削減と食品リサイクルにより食品廃棄ゼロエリアの創出を推進すること」が資源循環の高度化を通じた循環経済への移行のための主要な施策の一つとして位置付けられ、食品ロスの問題でも「脱炭素」を意識した取組が求められるようになった[]。食品ロスの問題は、「食品ロスの削減の推進に関する法律(2019年10月施行)」を契機に社会的な関心が一層高まる一方、本法律では「脱炭素」という目的を明確に位置付けてはおらず、両テーマの関係性が十分に整理されてはいない。

そこで本シリーズでは、脱炭素の観点から食品ロス削減の必要性を捉え直す一助となるべく、全2回にわたって、食品ロスと脱炭素/カーボンニュートラルを取り巻く動向を整理する。後編となる本稿では、脱炭素の観点から日本が目指す食品ロス対策の動きを整理するとともに、今後の展望を述べる。

【前編はこちらから】
食品ロス×脱炭素(前編)~食品ロスが気候変動に与える影響~(2023年2月15日)

2 「食品廃棄ゼロエリア」の創出

2.1 食品廃棄ゼロエリアとは?

前述のとおり、日本では2021年より「食品ロスの削減と食品リサイクルにより食品廃棄ゼロエリアの創出を推進すること」を、「脱炭素」の実現に向けた取組の一つとして進めている。

図表1 「食品廃棄ゼロ」の達成イメージ
「食品廃棄ゼロ」の達成イメージ
(出所)環境省「令和4年度 地方公共団体及び事業者等による食品廃棄ゼロエリア創出の推進モデル事業等 公募要領」(2022年3月1日)[]

ここで想定されている「食品廃棄ゼロ」とは、食品ロスの削減と食品リサイクルの拡大を組み合わせることで、温室効果ガスの発生に繋がる「食品の焼却・埋立」をゼロにすることとされている。具体的には、「飲食店での食べ残しの持ち帰り(mottECOの活用等)やフードドライブ、災害用備蓄食品の寄附、食品関連事業者の商慣習の見直しなどにより食品ロスを削減し、発生する食品廃棄物はリサイクル」とされており[]、行政・食品関連事業者・家庭・再生利用事業者・生産者・フードドライブ団体等が協力を図ることで、3Rを推進し、食品の焼却・埋立が生じないエリアの創出を目指すことである[]。

具体的には次のような事例が考えられる。ショッピングモールでは複数のテナントや飲食店が営業しているが、ショッピングモールの運営者が各テナントに対してごみ削減の取組を指導し、各テナントが発生抑制に徹底的に取り組む。その上でも生じてしまう食品廃棄物を分別収集、その全量をリサイクル(飼料化など)している場合、そのショッピングモールは「食品廃棄ゼロエリア」に該当すると言えるだろう[]。また家庭レベルで考えると、傷みやすそうな食品を優先して使うなどの食品ロス対策に取り組む。その上でも生じてしまう食品廃棄物について、全量を生ごみ処理機で堆肥にし、家庭菜園で利用している場合、エリアの範囲は狭いが「食品廃棄ゼロエリア」と呼ぶことができうる。現在、環境省は「令和4年度 地方公共団体及び事業者等による食品廃棄ゼロエリア創出の推進モデル事業等」を通じて、特定のエリア内の食品廃棄ゼロを実施するための費用および技術的支援を実施しており、事業者等が中心となって3件の取組が進んでいる。このような事例を参考に、全国的に波及が進んでいくことが期待される[]。

2.2 食品廃棄ゼロを目指す際も優先すべき取組~発生抑制・現状把握~

食品廃棄ゼロエリアの実現に向けて、食品廃棄物のリサイクルを徹底することは肝要である。しかし、「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律(食品リサイクル法)」の基本方針にある優先順位(発生の抑制、再生利用、熱回収、減量)に則り、食品廃棄物の発生抑制(Reduce)が最も重要であることは忘れてはいけない。食品廃棄ゼロエリアの概念も、あくまで徹底した発生抑制に取り組んだ上で、それでも発生する食品廃棄物に対しては、焼却・埋立以外の処理を推進することで、食品廃棄ゼロを達成するものである。

ここで、発生抑制(Reduce)に資する取組として、日本が現在注力しているものの一部を紹介する。

mottECO(モッテコ)の推進
環境省では、飲食店等で発生する食べ残しの持ち帰り行為を「mottECO(モッテコ)」と名付け、食べ残しの持ち帰りを促進する取組を行っている。「令和3年度 地方公共団体及び事業者等による食品ロス削減・食品リサイクル推進モデル事業等」においては、県が主導して外食店舗へmottECO導入を促進する取組[]や、競合関係にある外食大手企業が共同して導入に取り組む事業[]が採択されており、自治体および民間事業者を中心に今後の水平展開が期待される。

一方、環境省が2022年に実施した消費者アンケート調査によると[]、2021年に食べ残しを持ち帰った経験がある消費者(1,055人)における、食べ残し発生時の持ち帰りの実施頻度は、「食べ残しをほとんど持ち帰らない(6回に1回以下)」が48.1%と最も多いことがわかった。「食べ残しを持ち帰って消費することで、食品ロスを削減する」という社会的な機運の醸成はまだまだ途上であることが推察され、今後の取組余地は大きいと考えられる。

図表2 飲食店における食べ残し発生時の持ち帰り頻度(持ち帰り経験あり)
飲食店における食べ残し発生時の持ち帰り頻度(持ち帰り経験あり)
(出所)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「令和3年度食品循環資源の再生利用等の促進に関する実施状況調査等業務報告書」(令和4年3月)
(注記)民間調査会社に登録するWebモニターを対象とした消費者アンケート。2021年に持ち帰り経験がある回答者1,250名(年代、居住地の都市規模で均等割付)を対象とした設問。ただし、食事を残すことは無いという回答者(195名)を除く。
(注記)環境省からの受託事業として当社が調査・分析した結果。

市区町村単位での食品ロス発生量の把握への支援(食品ロス実態調査支援)[]
食品ロスの削減の推進に関する法律において、市区町村は家庭系食品ロス削減の推進役に位置づけられている。我々は食品ロス削減推進法施行から2年、取組は進んだのか?(2021年12月3日)にて、食品ロスの削減目標や削減推進計画を策定済みまたは策定予定の市区町村は1割程度であり、今後の増加が期待されるが決して芳しいとは言えない状況を整理した。

食品ロスの発生抑制(Reduce)に意欲的に取り組み、またその目標を立てるためには、まずは足元の発生量を把握することが第一歩であろう。環境省では2016年以降「家庭系食品ロスの発生状況の把握のためのごみ袋開袋調査手順書」の策定や「市区町村食品ロス実態調査支援事業」を通じて、各市区町村がごみ袋開袋調査(収集したごみ袋を実際に開き、可燃ごみ等に含まれる食品ロスを分類する調査)を実施し、食品ロス発生量の把握を進められるように支援している。(手順書については、調査の記録表や手順を説明した動画も併せて公表され、市区町村の調査能力の向上が期待されている。後者の支援事業では調査費用の一部を補助。)日本は他国より先んじて、国レベルで一定の信頼度のある食品ロス発生量を把握できているが、消費者一人ひとりが食品ロスを身近な問題として感じ、削減に向けて一層の努力を促すためには、市区町村レベルでの食品ロスの発生状況を示すことが重要であろう。食品ロスの実態調査を実施できていない市区町村においては、先述の手順書を参照されるとともに、他市区町村での調査事例等も参考とし、検討いただくことを推奨したい。

3 まとめ:脱炭素を意識した食品ロス削減の取組

本シリーズでは、食品ロスと脱炭素/カーボンニュートラルを取り巻く動向を整理した。これまで食品ロスの削減は、本来食べられるにもかかわらず廃棄される食品を、無駄なく大切に使おうという考え方のもとで進められてきた。脱炭素という観点においても、「脱炭素のために食品ロスを削減する」ということではなく、本来食べられるにもかかわらず廃棄される食品について、まずは「発生抑制」の徹底・推進が優先され、「無駄なく大切に」という考え方は変わりないであろう。またその意欲的な削減には、食品の廃棄がどれくらい生じているかを、消費者・事業者にとって身近に感じられるような形で調査・情報提供を行い、社会的な機運の醸成を図ることは引き続き重要である。

「地域脱炭素ロードマップ」は、発生抑制に取り組んでも発生する食品廃棄物・食品ロスの処理において、環境影響も意識した検討を行う必要性が問題提起されたと考える。現在「焼却・埋立」に投入される食品廃棄物をゼロにすることが掲げられているが、各種取組が実質的な脱炭素(あるいは温室効果ガスの削減)に繋がるかは、システム全体をライフサイクルの視点で評価することが必要になろう(いわゆる、ライフサイクルアセスメントである)。例えば、遠く離れたリサイクラーの元まで食品廃棄物・食品ロスを運搬し、リサイクルを実施できたとしても、その一連のプロセスが「焼却・埋立」よりも温室効果ガスの発生が小さいものでなければ、脱炭素の狙いからは外れた取組となるだろう(この場合は運搬効率が改善されるよう、近隣のリサイクラーを第一に検討すること等が必要となる)。食品を無駄なく大切に活用するための取組を進めるにあたり、環境影響の観点からより良い取組は何か、事例ベースで判断していくことがより重要になると考える。

環境影響には、温室効果ガスの排出だけではなく、水資源や生物多様性といった考慮すべき事項は多く存在する。行政・食品関連事業者・家庭・再生利用事業者・生産者・フードドライブ団体等が「食品廃棄ゼロエリア」という概念を念頭に取り組み、個々の周辺環境に応じた最も環境に良い取組を選んだ結果として、日本全国に「食品廃棄ゼロエリア」が数多く創出されることを期待したい。


[] 国・地方脱炭素実現会議「地域脱炭素ロードマップ~地方からはじまる、次の時代への移行戦略~」(令和3年6月9日)
[] 環境省「令和4年度 地方公共団体及び事業者等による食品廃棄ゼロエリア創出の推進モデル事業等の公募について」(2022年3月1日)
[] なお、2023年2月現在ではエリアの大小やその期間を定められてはおらず、また第三者機関がエリア認定を行うといった動きは確認されていない。
[] 例えば、株式会社JR博多シティでは、テナントへの徹底した指導や19種類のごみ分別、生ごみが100%飼料化・再生利用されており、「食品廃棄ゼロエリア」と呼べるのではないかと考える。なお、本取組は令和3年度循環型社会形成推進功労者環境大臣表彰にて「3R活動優良企業」を受賞されている。
[] 環境省「令和4年度 地方公共団体及び事業者等による食品廃棄ゼロエリア創出の推進モデル事業等の採択結果について」(2022年5月31日)
部門Ⅰ(食品廃棄ゼロエリア創出モデル事業)にて、公益財団法人Save Earth Foundation「食品廃棄ゼロ京都プロジェクト『食品ロスゼロ×食品リサイクル100%』」、エイチ・ツー・オー リテイリング株式会社「地域とともに実現する食品廃棄ゼロエリアプロジェクト」、学校法人 藍野大学「AINO TOWN食品廃棄ゼロエリア創出プロジェクト」の3事業が展開中。
[] 群馬県環境森林部気候変動対策課ゼロ宣言推進係「上毛バッグ(mottECO)導入モデル事業 最終報告」(2022年3月16日)
[] 株式会社セブン&アイ・フードシステムズ、ロイヤルホールディングス株式会社「mottECO普及による食品ロス削減と脱プラ両立プロジェクト報告書」(2022年2月)
[] 「飲食店における食べ残しの持ち帰りに関するアンケート調査」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「令和3年度食品循環資源の再生利用等の促進に関する実施状況調査等業務報告書」(2022年3月)の抜粋版)
民間調査会社に登録するWebモニターを対象とした消費者アンケートの結果。環境省からの受託事業として当社が調査・分析。
[] 環境省HP「食品リサイクル関連 食品ロスの削減・食品廃棄物等の発生抑制」(2023年2月1日最終閲覧)
家庭系食品ロスの発生状況の把握のためのごみ袋開袋調査手順書、市区町村食品ロス実態調査支援報告書が掲載されている。

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