はじめに
高校生と高校生の子を持つ保護者の「性被害」の認識と、誤解の背景 | 三菱UFJリサーチ&コンサルティング (murc.jp)では当社独自アンケートに基づき、高校生と高校生を子に持つ保護者間の性被害に関する認識とその誤解について述べている。本稿では、高校生を含めた子どもが性被害に遭うきっかけの1つとされるSNSの利用に着目し、同アンケートの結果から高校生と高校生の子を持つ保護者の間にあるSNSの利用方法や利用時のルールに対する認識のずれを考察することで、SNSに起因する性被害の未然防止に向けた糸口を紐解いていきたい[ 1 ]。
1.SNSに起因する犯罪被害の実態とは
(1)SNSに起因する犯罪被害は10年前に比べて高い水準にある
SNSの利用方法や利用時のルールなどの状況を述べる前に、SNSに起因する高校生を含めた子ども[ 2 ]の犯罪被害の実態についてみていきたい。
警察庁によれば、令和4年中にSNSに起因する犯罪被害に遭った子どもの数は1,732人であり、令和3年の1,812人に比べ微減したものの、10年前(平成24年)に比べ1.61倍となっている(図表 1)。
(2)SNSに起因する犯罪被害が生じる背景とは
SNSに起因する犯罪被害の種類はさまざまあるが、特に性犯罪の被害につながる背景の一つとして、SNSは匿名性が高く、子どもたちが身近な人に相談できない悩みを吐露しやすいことが挙げられる。特に、友人や家族との関係性や自分の身体・容姿に関する悩み、「寂しい」「死にたい」といった感情に関する投稿を見た大人のユーザーが、子どもと親密な関係を築こうと相談に乗る(あるいは相談に乗るふりをする)などして近づきコミュニケーションを重ねることで、いつの間にか子どもが大人に懐柔されてしまい、相手の性的な要求に応えてしまうといったケースが見られる。
また、第三者が介入しづらいSNSにおいて、性犯罪は潜在化しやすく、発覚が遅れやすいという特徴がある。被害の未然防止に向けては、SNSの危険性を十分に理解するとともに、子どもと保護者との間でSNSの利用に関するルールを適切に定め、何かが起きたときの対応を事前に話し合っておくことが重要である。
なお、SNS上で子どもたちを懐柔するオンライングルーミング[ 3 ]やそれにより起こる被害、被害防止に向けた大人たちの役割等については、オンライングルーミングによる犯罪被害防止に大人ができること | 三菱UFJリサーチ&コンサルティング (murc.jp)にて述べているため参照してほしい。
以降では、SNSの主な利用機器となる「スマートフォン」の保有率が高い[ 4 ]高校生を対象としたアンケート調査結果をもとに、高校生及び高校生の子を持つ親のSNSの利用方法や利用時のルールに関する認識について把握していきたい。
2.SNSを利用する高校生の3人に1人が性的な嫌がらせの被害に
令和5年6月に三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社が実施した高校生300名、高校生の子を持つ保護者300名のネットモニターのそれぞれを対象に実施したアンケート調査[ 5 ](以下、「当社アンケート調査」という)の結果から、高校生のSNSの利用とSNS上での性被害の実態について読み解いてみたい。
(1)アンケートに回答した高校生のSNSの利用状況
当社アンケート調査においては、SNSを利用している高校生は81.7%、SNSを利用していない高校生は18.3%であった[ 6 ]。性別にみると、「SNSを利用している」と回答したのは、男子74.0%、女子89.3%であり、女子の方が高くなっている(図表 2)。
(2)SNSで性的な嫌がらせの被害を受けた経験
SNSを利用していると回答した81.7%(n=245)に対し、SNSで見ず知らずの人から性的なコメントやメッセージが届いた経験について尋ねたところ、61.2%が「今までにまったくない(0回)」としたものの、「少しある(過去数回程度)」「それなりにある(過去十回程度)」「よくある(過去10回よりも多い)」と回答した割合の合計は31.0%であり、SNS利用者のおよそ3人に1人が何かしら性的なコメントやメッセージを受信した経験がある(図表 3)。
また、SNSで見ず知らずの人から性的な画像や動画が届いた経験について尋ねたところ、75.9%が「今までにまったくない(0回)」としたものの、「少しある(過去数回程度)」「それなりにある(過去十回程度)」「よくある(過去10回よりも多い)」と回答した割合は15.9%であり、およそ6人に1人が性的な画像や動画を受信した経験がある(図表 4)。
なお、SNS上で性的な嫌がらせを受けた経験の有無に男女差はほとんどなく、性別にかかわらず被害に遭う可能性があることがわかる。
3.SNS上で知り合った見ず知らずの人と実際に会ってしまう高校生とそれを知らない保護者たち
高校生に対し、SNS上で知り合った見ず知らずの人と実際に会った経験について尋ねたところ、SNSを利用している高校生のうち、64.9%が「今までにまったくない(0回)」と回答したものの、「少しある(過去数回程度)」「それなりにある(過去十回程度)」「よくある(過去10回よりも多い)」と回答した割合は24.5%であり、およそ4人に1人がSNS上で知り合った見ず知らずの人と実際に会った経験がある(図表 5)。
オンライングルーミングによる犯罪被害防止に大人ができること | 三菱UFJリサーチ&コンサルティング (murc.jp)においても示した通り、SNSに起因する子どもの犯罪被害を防止するには、見ず知らずのユーザーに接触の機会を与えないことが重要である。しかしながら、4人に1人は見ず知らずの人に会ってしまっているのである。
最近では、いわゆる「推し活[ 7 ]」を通じてSNS上で知り合った共通の趣味を持つ人と、イベント会場やライブ会場で実際に会うということもあり、見ず知らずの人と会う行為すべてを否定することはできない。しかしながら、匿名性の高いSNSにおいて子どもに接触しようとする他のユーザーが“単なる良い人”なのか、良い人を演じる“偽りの良い人”なのか判断するのは難しく、原則として会わないことが望ましい。
ここからは、保護者は子どものSNSの利用実態についてどのように捉えているのか見ていきたい。高校生の子を持つ保護者に対し、自分の子どもがSNS上で知り合った見ず知らずの人と会ったことは無いと思うか尋ねたところ、39.3%が「大いにそう思う」とし、「大いにそう思う」と「どちらかと言えばそう思う」を合わせた「そう思う(会っていないと思う)」の割合は68.6%、「全くそう思わない」「どちらかと言えばそう思わない」を合わせた「そう思わない(会っていると思う)」の割合は10.0%であった(図表 6)。
高校生の回答と高校生の子を持つ保護者の回答を比べると、高校生がSNSを通じて見ず知らずの人と会った経験がある割合(25.4%)と保護者が自分の子どもが見ず知らずの人と会っていると思う割合(10.0%)は15.4ポイントのずれが生じており、保護者が「自分の子どもはSNSで知り合った見ず知らずの人と会っていない」と思う以上に、高校生は実際に会っていることがわかる。
4.ルールを決めていると思っているのは保護者だけ!?
高校生と高校生の子を持つ保護者のそれぞれに対し、SNSの利用について保護者と話し合ったりルールを決めたりしているか[ 8 ]尋ねたところ、「大いにそう思う」と「どちらかと言えばそう思う」をあわせた「そう思う(ルールを決めている)」と回答した割合が保護者は51.3%と過半を占めるのに対し、高校生は31.0%に留まり、20.3ポイントの乖離が見られた(図表 7)。これより、保護者はSNSの利用について話したりルールを決めたりしていると思っていても、高校生はそのように認識していない可能性もあることが示唆される。
なお、子どもとSNSの利用について話したりルールを決めたりしていると回答した保護者(n=275)に対し、子どもがルールを守っているか確認しているか尋ねたところ、「大いにそう思う」と「どちらかと言えばそう思う」を合わせた「そう思う(ルールを守っているか確認している)」の割合は41.5%であり、ルールを定めるだけでなく、それらが守られているかを確認している保護者も一定数いることが分かった(図表 8)。子どもがルールを認識し、自律的に守るのは難しいこともあり、このようにルールを守っているか確認することは、ルールの明確化や定着化につながる取り組みの一つとして有効と考えられる。
5.SNSは複数アカウントが当たり前!?女子高校生の6割は裏アカを保有
第三者が利用実態を把握しにくいSNSにおいて、さらに実態を見えにくくしているのが、「複数アカウント(複アカ)」ならびに「裏アカウント(裏アカ)」[ 9 ]の存在である。
SNSを利用している高校生に対し、同一SNS内で最も多いアカウント数を尋ねると、「2つ」と回答した割合が33.1%と最も高く、複数保有している割合は全体で73.5%であった。また、複数アカウントを保有している割合は男子よりも女子の方が高く、女子で「1つ」と回答した割合は17.9%に留まった。
また、SNSを利用している高校生の「裏アカ」の保有状況[ 10 ]についてみると、「ある」と回答した割合が47.8%と、「ない」の44.9%を上回り、およそ2人に1人が裏アカを保有している。
男女別にみると、女子の場合は裏アカが「ある」と回答した割合が59.0%であり、男子の34.2%に比べ24.8ポイント高い(図表 9)。
複数アカウントや裏アカウントの用途はアンケートで把握できていないが、SNSを利用している高校生の多くが複数アカウントや裏アカウントを保有しているのは、秘匿性の守られた環境で何かを発信したり、共感できる何かを見たりしたいという気持ちの表れかもしれない。
高校生の子を持つ保護者に対して子どもがどんな種類のSNSを使っているか把握しているか尋ねたところ、「大いにそう思う」「どちらかと言えばそう思う」を合わせた「そう思う(把握している)」と回答した割合は45.3%であり、「まったくそう思わない」「どちらかと言えばそう思わない」を合わせた「そう思わない(把握していない)」と回答した割合の34.7%に比べ、10.6ポイント高い結果となった。つまり、保護者としては、高校生の子どもがどんな種類のSNSを使っているか把握できていると認識している傾向がうかがえる。ただし、SNSを利用している高校生の7割が同一SNS内に複数アカウントを保有していることを踏まえると、どんな情報に触れ、どんな情報を発信しているかといった、SNS利用の“実態”を把握することも必要かもしれない。
6.SNSに起因する性被害の未然防止に向けて
本稿では、当社アンケート調査の結果に基づき、高校生のSNSの利用実態やSNS上における性的な嫌がらせの被害に関する実態を把握した。さらに、高校生がSNS上で知り合った見ず知らずの人と実際に会った経験の有無や利用に関するルールに対する認識についての実態を把握するとともに、これらに関する保護者の認識との乖離について示した。
繰り返しになるが、SNS上のコミュニケーションは第三者から見えづらく、保護者が子どもの利用実態や犯罪被害の発生を確認しづらい性質を持ち、この閉鎖性が乖離の一因となっているものと考えられる。こうした中で、SNSに起因する子どもの犯罪被害を予防するには、日ごろから、保護者と子どもがSNSの利用方法とそのルールについて話す機会を持ち、相互理解を深めることが重要である。高校生、保護者いずれも、「自分だけは大丈夫」、「自分の子どもは大丈夫」と過信せず、SNSの利便性や有用性だけでなく、その危険性[ 11 ]についても理解しようとすることが最も重要である。
その上で、保護者と子どもが日ごろからSNSの利用における具体的な留意点やSNSに起因した犯罪被害に遭った場合の対応方法について話し合うことが重要な予防策の一つとなると思料する。このとき、たとえば「見ず知らずの人に会ってはならない」と口頭で注意するだけでは子どもたちの印象に残らず、ルールや決め事としての効果を発揮できない可能性もある。話し合いの中では、具体の方法や対策[ 12 ]を明確化するなどして、保護者と子どもが共通認識を持つことが大切である。さらに、ルールを守っているか確認したり、その方法や頻度を見直したりしながら、自分たちのやり方が犯罪被害の未然防止に繋がっているかどうか[ 13 ]を検討することも重要である。
おわりに
今回は、高校生に着目して実態の把握や考察を行ったが、これは高校生に限らずSNSを利用する全ての子どもにも共通する部分があるだろう。
SNSは子どもたちが身近な人に相談できない悩みを打ち明けられる貴重な場である可能性もあり、無理に利用を制限したり監視したりすると、より深刻な悩みに発展してしまったり、SNSを利用していること(あるいはルール外の利用をしていること)を保護者に隠そうとしてますます実態が見えにくくなったりする懸念がある。子どもたちがSNSを安全に上手く利用できるよう、子どもと保護者とで同意できるルールを定めたうえで、何かあったときにはすぐに相談できる関係性を構築することも非常に重要である。
本コラムはリレー形式でお届けしております。
次号はアンケート調査の別パートを見ながら、国が実施する性犯罪・性暴力対策の「集中強化期間」の取組みや子どもが性犯罪・性被害に遭った際のサポート・相談窓口の認知度等について考察することを予定しています。
[ 1 ] アンケート調査は株式会社クロス・マーケティンググループへの委託により2023年6月15日から6月20日まで実施。アンケートの回答者は高校生300名、高校生の子を持つ保護者300名のネットモニター(両者のネットモニターは個別に募集しており、関係性はない)。
[ 2 ] 本稿では高校生に関する論考を行うため高校生のみの被害状況を述べることが望ましいが、これが公表されていないことから、警察庁より公表されている高校生以下の者(=「子ども」)に対する犯罪被害の実態について整理することとした。
[ 3 ] 性犯罪の準備行動としてSNS 等のオンライン上で大人が子どもを懐柔すること。
[ 4 ] 内閣府「令和4年度 青少年のインターネット利用環境実態調査」(2023年3月)https://www8.cao.go.jp/youth/kankyou/internet_torikumi/tyousa/r04/net-jittai/pdf/2-1-1.pdf (閲覧日2023年8月23日)によれば、スマートフォンの所有率は小学生が 43.8%、中学生が 78.9%、高校生97.9%である。今回は、スマートフォン所有率が高く、小中学生に比べて行動範囲が広がる高校生を対象に調査を行うこととした。
[ 5 ] 高校生300名は学年・性別の均等割り。保護者は子どもの学年で均等割りをし、子どもの性別は男156名、女144名となっている。なお、ここでの男女は出生時の戸籍・出生届の性別であり、高校生のうち8.3%は「別の性別だととらえている」、「違和感がある」を選択している点に留意が必要。また、グラフ中の数値は小数点以下第2位を四捨五入しているため合計値が100.0%にならない場合がある。
[ 6 ] 本アンケートではSNS全般を対象としたが、「SNSを利用していない」と回答した高校生は、LINEなど専ら連絡手段として使用するツールをSNSではないと判断した可能性があることに留意が必要である。
[ 7 ] 自分が好きなアイドルやアーティスト、インフルエンサー、俳優、声優、キャラクター等のライブやイベント等に参加したり、グッズを購入したり、また、対象の魅力をSNS等で発信したりするなど、あらゆる形で応援する(=推す)活動。
[ 8 ] 高校生に対しては「SNSの利用について、親と危ないことについて話し合ったり、SNSの利用ルールを決めていたりする。」と思うかどうかを尋ね、高校生の子を持つ保護者に対しては「SNSの利用に際して、あなたは、あなたの子どもに利用上の注意事項を説明したり、利用のルールを決めている。」と思うかどうかを尋ねている。
[ 9 ] 複数アカウントは、同一のSNSにおいて、保護者・家族用、学校の友人用、趣味の友人用などとフォロー・フォロワーを限定・選別するなどして、アカウントを複数保有することであり、裏アカウントとは、メインに使用するアカウント(本アカ)とは別に、本アカでは発信できない、誰かに気付かれたくないような言動、写真等の発信に使用する匿名性の高いアカウントのことである。SNSによっては、裏アカにおいて、性的な画像や動画が氾濫しているものも見受けられる。
[ 10 ] アンケートでは「複数のアカウントを有しているSNSがある(いわゆる「裏アカ」を持っている)」か尋ねた。なお、設問の注釈にて、ここでいう裏アカとは「自身のメインアカウントとは別に、限定した友人知人しか知らない、または友人知人も知らない、身バレをしたくないアカウントまたはそれに準ずるもの」を指す旨を補足している。
[ 11 ] 子どものSNS利用における危険性については、総務省のインターネットトラブル事例集(https://www.soumu.go.jp/use_the_internet_wisely/trouble/)等が参考になる。
[ 12 ] ブロック機能の確認やペアレンタルコントロールの活用など。詳細は総務省の特集ページ(https://www.soumu.go.jp/use_the_internet_wisely/special/filtering/)や「 オンライングルーミングによる犯罪被害防止に大人ができること | 三菱UFJリサーチ&コンサルティング (murc.jp) 」も参考にしてほしい。
[ 13 ] 子どもと保護者で「危なかった出来事」と「どう対応したか」を話し合うことで、子どもの対応力の向上や、何かあったときにすぐに相談できる関係性の構築にも効果的であると思われる。
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