国の性犯罪・性暴力対策は高校生と保護者に届いているのか「集中強化期間」のはずが、認知度2割強の衝撃
はじめに
当社では、令和5年6月に高校生及び高校生の子を持つ保護者に対する独自アンケート調査[ 1 ]を実施し、高校生とその保護者の性暴力・性被害の認識に焦点を当て、その性暴力・性被害に関する誤解があることを確認してきた。(高校生と高校生の子を持つ保護者の「性被害」の認識と、誤解の背景 | 三菱UFJリサーチ&コンサルティング (murc.jp)、SNS利用に関する親と子の危険な認識のズレ | 三菱UFJリサーチ&コンサルティング (murc.jp))
コラムリレー第3弾となる本稿では、高校生及び高校生の子を持つ保護者を支援する取組について、国の性犯罪・性暴力対策の「集中強化期間」の取組やサポート・相談窓口の認知度等を把握するとともに、高校生と高校生の子を持つ保護者の認知度の違いを考察しつつ、行政として今後取り組むべき方向性について述べていきたい。
以降では、アンケート対象である高校生の子を持つ保護者を、便宜上「保護者」と表記する。
1.最近まで、性犯罪・性暴力対策の「集中強化期間」だった?
令和2年6月11日性犯罪・性暴力対策強化のための関係府省会議にて「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」を決定し、令和2年度から令和4年度までの3年間を、性犯罪・性暴力対策の「集中強化期間[ 2 ]」と設定していたことを、読者はご存じだろうか。
同方針では、「被害申告・相談をしやすい環境の整備」や「切れ目のない手厚い被害者支援の確立」「教育・啓発活動を通じた社会の意識改革と暴力予防」などが位置づけられ、警察における相談窓口の周知や支援の充実、ワンストップ支援センターにおける支援の充実、被害者がワンストップ支援センターにつながるための体制の強化、「生命(いのち)の安全教育」など学校等における教育や啓発の内容の充実等の施策が進められた[ 3 ]。
性犯罪・性暴力対策が積極的に推進されてきた「集中強化期間」について、果たして高校生と保護者は知っているのだろうか。以降では、「集中強化期間」の取組(図表1参照)のうち、とりわけ高校生と保護者に対する取組等について、アンケート調査の結果から認知度等の実態をみていきたい。
図表 1 「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」における取組の方針と具体的な施策の例
取組の方針(例) | 具体的な取組(例) | |
---|---|---|
犯罪の定義・加害者関連 | 刑事法に関する検討とその結果を踏まえた適切な対処 |
|
性犯罪者に対する再犯防止施策の更なる充実 |
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被害者支援関連 | 被害申告・相談をしやすい環境の整備 |
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切れ目のない手厚い被害者支援の確立 |
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予防関連 | 教育・啓発活動を通じた社会の意識改革と暴力予防 |
|
出典:性犯罪・性暴力対策強化のための関係府省会議「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」(令和2年6月11日決定)より当社作成
2.高校生の75.3%、保護者の81.3%が性犯罪・性暴力対策の「集中強化期間」を知らない
(1)「集中強化期間」の認知度
性犯罪・性暴力対策の「集中強化期間」について、その期間の存在自体も含めた認知度についてみると、高校生の75.3%、保護者の81.3%が、「集中強化期間」の存在を初めて知ったと回答した。また、「具体的な取組内容を知っている」「取組内容を大まかには知っている」を合わせた「取組内容を知っている」割合は高校生が10%、保護者は、高校生よりも低く、5%にも届かないことが明らかになった。
保護者は子どもが被害に遭った際の相談相手として、また、迅速かつ適切な対処行動を取る存在として最も身近で重要な役割を担うはずだが、本調査結果からは、むしろ子どもの方がどのような性犯罪・性暴力対策があるか知っている割合が高い結果となった。
3.高校生の63.0%、保護者の70.3%が性犯罪・性暴力に関する相談窓口を全く知らない
さらに深刻なことに、認知度が低いのは政策の存在だけでなく、いざというときの相談窓口でも同様だということがわかった。性犯罪・性暴力に関し、国が取り組む相談窓口の認知度についてみると、提示した10の相談窓口を「どれも知らない」と回答した割合が、高校生、保護者いずれも最も高く、それぞれ63.0%、70.3%であった。また、認知されているものでは、高校生、保護者いずれも「子どもの人権110番」が最も高く、次いで、「警察相談専用電話#9110」であった。
さらに、高校生と保護者の認知度の違いについてみると、「女性の人権ホットライン」「各都道府県の婦人相談所」を除き、高校生の方が保護者に比べ認知度が高く、「集中強化期間」の認知度同様の結果となった。
いずれにしても、いざというときの国の相談窓口について、国はさまざまな相談窓口を設置しているが、十分認知されているとは言い難い状況にある。
高校生の方が保護者に比べ認知度が高いことについては、学校での性教育が一定の効果を上げている可能性もある。
高校生における学校での性教育が性のトラブルを防ぐことに役立っていると思うかの評価と、認知している相談窓口との関係をみると、図表4のとおり「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」「女性の人権ホットライン」を除き、学校での性教育が「役立つ」と思う高校生は各相談窓口の認知度が高く、「役立つと思わない」または「わからない、答えたくない」と思う高校生に比べ、提示した10の相談窓口を「どれも知らない」とする回答の割合が低いことがわかった。
4.国の取組の実効性を高めるためには、取組状況を高校生・保護者に届けることがカギ
「1.」で示したとおり、国は性犯罪・性暴力等の対策に向け、関係府省が連携してさまざまな取組を推進し、かつ、令和2年度から令和4年度の3年間を「集中強化期間」として、それらの取組を強化してきたところである。
しかしながら、アンケート調査結果から、高校生、保護者いずれも、「集中強化期間」の存在自体の認知度も2割程度に留まる。
さらに、いざというときのために国が設置する個別の相談窓口についても、その認知度は低いと言わざるを得ない。
これはただの知識不足、という問題として捉えるべきでないのは、第2弾でみたとおりであり、SNSをはじめとする性被害に遭うリスクは非常に高まっているという現実がある。取組は当事者である高校生や高校生の子を持つ保護者には届いておらず、とりわけ相談窓口など、高校生や保護者が認知していない状態では、取組の実効性が高いとは言い難いだろう。
おわりに
令和5年7月26日「こども・若者性被害防止のための緊急対策パッケージ」がまとめられ、今後、性犯罪・性暴力被害防止に向けた取組は加速していくだろう。しかし、高校生や保護者に対し、国の方針や積極的な取組が伝わっておらず、重要な相談窓口の認知度も低い。いざというときにどこに相談すべきか、そもそも自分たちを守るために公的な支援はあるか、などが理解できていない状況にあると言えよう。さらに言えば、保護者の方が高校生に比べ取組や相談窓口の認知度が低く、最も身近な存在であるものの、支援者として機能しない可能性もあるだろう。
今般、芸能事務所の性加害に関する報道が多くなされ、社会的関心が高まっている状況にあると言えよう。一個人の性加害事件、と捉えるのではなく、性加害がいかに暗数化しやすいか、ということを改めて理解し、国が主導し、子どもたち、あるいはその保護者の目や耳に届く方法で、支援政策を普及することが必要ではないか。
本コラムはリレー形式でお届けしております。
次号はリレー形式の最終回として、子どもとの協議の重要性について述べることを予定しています。
[1] アンケート調査は株式会社クロス・マーケティンググループへの委託により2023年6月15日から6月20日まで実施。アンケートの回答者は高校生300名、高校生の子を持つ保護者300名のネットモニター(両者のネットモニターは個別に募集しており、関係性はない)。高校生300名は学年・性別の均等割り。保護者は子どもの学年で均等割りをし、子どもの性別は男156名、女144名となっている。なお、ここでの男女は出生時の戸籍・出生届の性別であり、高校生のうち8.3%は「別の性別だととらえている」、「違和感がある」を選択している点に留意が必要。
[2] 性犯罪・性暴力対策強化のための関係府省会議「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」(令和2年6月11日決定)(概要)https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/seibouryoku/pdf/policy_03.pdf
[3] なお、令和5年3月30日には同会議にて「性犯罪・性暴力対策の更なる強化の方針」を決定し、令和5年度から令和7年度の3年間を「更なる集中強化期間」として、これまでの方針や集中強化期間の取組を強化することとしている。
[4] 「学校で受けた性教育が、性のトラブルを防ぐことに役立っていると思うか」に対し、「大いにそう思う」「どちらかといえばそう思う」を「学校での性教育が役立つと思う」、「まったく思わない」「どちらかといえばそう思わない」を「学校での性教育が役立つと思わない」とし、国が取り組む相談窓口の認知度とのクロス集計を行った。
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