性被害や性に関する子どもと保護者の話し合い、なぜ進まない?「自分/我が子は性被害に遭わない」という誤解の原因と、対話をためらう理由

2023/12/05 鈴庄 美苗、渡部 彩乃
子ども
SNS
防犯
安全
教育

はじめに

当社では、令和5年6月に高校生および高校生の子を持つ保護者に対する独自アンケート調査[ 1 ](以降、「当社アンケート調査」という。)を実施し、高校生とその保護者の性暴力・性被害の認識に焦点を当て、性暴力・性被害に関する誤解があることや国等が実施する性犯罪・性被害に関する対策や相談対応窓口の認知度が低い現状を確認した。(高校生と高校生の子を持つ保護者の「性被害」の認識と、誤解の背景 | 三菱UFJリサーチ&コンサルティング (murc.jp)SNS利用に関する親と子の危険な認識のズレ | 三菱UFJリサーチ&コンサルティング (murc.jp)国の性犯罪・性暴力対策は高校生と保護者に届いているのか | 三菱UFJリサーチ&コンサルティング (murc.jp)

コラムリレー最終回の本稿では、SNS上での性犯罪・性被害を未然に防いだり、万が一被害に遭ってしまった際に適切に対応したりするための下地作りとして重要と考えられる「子どもと保護者との対話」の必要性と対話をためらう理由について考察する。

1.「自分なら/我が子は性被害に遭わない」と思いがち?

子どもと保護者の間で、性被害や性に関する対話が進まない要因の一つに、「自分/我が子は性被害に遭わないはずだ」という思い込みがあると考えられる。

(1)楽観バイアスの影響

当社アンケート調査では、高校生と高校生の子を持つ保護者に対して自分/我が子はSNSで見ず知らずの人からコメントやメッセージ等の連絡があった場合に、無視する、あるいは、かわすことができていると思うか尋ねた。結果を見ると、SNSを利用している高校生は70.6%、保護者は65.4%が「どちらかと言えばそう思う」または「大いにそう思う」と回答していることが分かる。

図表 1 SNSで見ず知らずの人から連絡があった場合に無視・かわすことができていると思うか【高校生・保護者】SA
SNSで見ず知らずの人から連絡があった場合に無視・かわすことができていると思うか【高校生・保護者】SA
(出所)当社作成

さらに、「大いにそう思う」と回答した高校生に対し、なぜそのように思うか自由記述形式で回答を求めたところ、「おかしいと思ったらすぐブロック[ 2 ]するようにしているから」「非公開アカウントにしてあり、危ない人からのフォローを防げているから」など具体的な対策を挙げている回答や、「変なことに巻き込まれるのは嫌だから」「無視しないと犯罪に巻き込まれてしまうから」など自衛の心掛けが表れている回答がある一方で、「無視できると思うから」「なんとなく」など具体的な根拠が記載されていない回答もあった。

SNSで見ず知らずの人から送られてきたコメントやメッセージは無視した方が良いことを理解しているにも関わらず、具体的な対策や根拠もないまま上手く受け流せると思ってしてしまう背景には、「そもそも自分はSNSの利用を通じて危機的な状況に陥ることはないだろう」という楽観バイアス[ 3 ]の影響があると考えられる。さらに、性被害につながるような危機的な状況に陥っている場合においても、「いつも通り対応していれば大丈夫だろう」という正常性バイアス[ 4 ]がはたらき、状況が悪化する懸念もある。そして、これらは保護者にも言えることではないだろうか。

(2)SNSの利用状況の見えにくさの影響

「我が子は性被害に遭わないはずだ」という保護者の楽観バイアスの背景には、我が子のSNSの利用状況が正確に把握できていないことも挙げられるだろう。

実際、子どもの利用するSNSのアカウントや、利用するSNSの種類について、「把握できていないのではないか」と感じる保護者も多く、アカウント把握では48%、SNSの利用種類では35%程度の保護者が把握できていないと感じているようだ。そして、この感覚は杞憂とも言えない。当社アンケート調査では、SNSを利用している高校生の「裏アカ」の保有状況を調査しており、その結果、およそ2人に1人が裏アカを保有していることが分かった。保護者がSNSの利用状況を正確に把握することは、確かに容易ではないだろう。(詳細はSNS利用に関する親と子の危険な認識のズレ | 三菱UFJリサーチ&コンサルティング (murc.jp)の図表9を参照。)

図表 2 子どものSNSのアカウントや利用しているSNSの種類の把握状況【保護者】SA[ 5
子どものSNSのアカウントや利用しているSNSの種類の把握状況【保護者】SA
(出所)当社作成

2.利用状況が見えにくいSNSと上手く付き合い、性被害を避けるためのカギとしての、親子間の対話

利用状況が見えにくいからと言ってSNSを一切利用しないように規制をかけることは、現実的な対応策とは言えないだろう。むしろ、いかに子どもがSNSと上手く付き合えるようにし、性被害を避けたり、性トラブルを深刻化させなかったりできるかを検討することが重要である。そのためには、子どもの日常の中にはSNS利用が当たり前にあることを前提として、学校生活や友人関係について保護者が把握するのと同じように、利用状況を保護者が知っても問題ないと子どもが思えるだけの関係性づくりや、関係性づくりのための対話が必要だろう。さらに親子間に性被害対応の想定も含めた充実した対話があれば、子ども自身が「安全にSNSを利用しよう」という自律的な予防行動も期待できるだろう。

しかし、高校生とその保護者が、性や性被害に関する対話を行うことは難しい現状があることが当社アンケート調査で分かった。ここからは親子間の対話がためらわれる理由について、高校生の視点と保護者の視点の双方から見ていく。

(1)親子間の対話を躊躇する理由―高校生の視点から―

高校生に対し、性暴力・性被害に遭った際に、親に相談することのイメージを尋ねたところ、図表3のとおり親へ相談することにネガティブなイメージを持っている割合が7割程度となり、「親に言うのが恥ずかしい」が29.4%で最も高く、次いで「親に心配をかけたくない」が15.1%となっている。他方で「親に言っても何も解決しない」は5.5%に留まり、相談者として期待されていない訳ではなく、身近な親だからこそ恥ずかしい、心配をかけたくないという気持ちがあるとうかがえる。

図表 3 性暴力・性被害に遭った際に、親へ相談することのイメージ1位【高校生】SA(分からないを除く)
性暴力・性被害に遭った際に、親へ相談することのイメージ1位【高校生】SA(分からないを除く)
※黒字が保護者相談へのネガティブなイメージに関する選択肢
(出所)当社作成

また、性や性被害に関わらず、そもそもの日常の親子のコミュニケーションの状況についても調査した。その結果、生活を共にする親(同居している親)と「ほぼ毎日かそれ以上の頻度でコミュニケーションをとっている」のは、母親で85%程度、父親で55%程度となり、回答のあった高校生全員が親子間で毎日のようにコミュニケーションを取っているわけではないことが分かった[ 6 ]。

図表 4 生活を共にする親とのコミュニケーションの状況【高校生】SA
生活を共にする親とのコミュニケーションの状況【高校生】SA
(出所)当社作成

(2)親子間の対話を躊躇する理由―保護者の視点から―

では、保護者は性に関するトラブルを具体的に想定しながら子どもに教えようとしないのはなぜか。当社アンケート調査の結果によると、保護者のうち、性的なトラブルに遭ったときの場面を具体的に想定しながら、対応手順について話し合いをする層は74名に留まり、その2倍程度の144名が話し合いをしない層[ 7 ]となった。

話し合いを躊躇する理由としては、図表4のとおり、「どのような方法だとうまく伝えられるか分からないから」が最も高く40%以上となり、次いで「思春期の子どもで話しにくさを感じるから」が31.9%となった。どのように伝えるべきか、いつ伝えるべきか、という悩ましさと同程度に、思春期や異性であることを理由に話しにくさを感じている様子もうかがえる。

図表 5 性的なトラブルに遭ったときの場面を具体的に想定しながら対応手順について話し合っていない理由【保護者】MA
性的なトラブルに遭ったときの場面を具体的に想定しながら対応手順について話し合っていない理由【保護者】MA
(出所)当社作成

(3)対話を躊躇する背景として、親子に共通してありうるもの―性に関する話題はタブー?―

保護者や高校生の躊躇する理由の回答結果からは、身近な関係性ゆえの恥ずかしさや、日常会話を越えて性や性被害対応に関してうまく話せるか、という不安がある様子がうかがえた。これらから、親子に共通する背景には「性に関する話題はタブーである」という考え方があるのかもしれない。

高校生も保護者も、性や性被害対応を想定して話すことは日常会話とは異なる「イレギュラーなこと」と感じてしまいお互いに過度に緊張してしまっている可能性がある。このタブー視を家庭内で解消する一つの方法としては、日頃から文字通り「なんでも」話せるという関係性づくりが重要である。そのために、まず第一歩として、日常のコミュニケーションの頻度自体が必ずしも十分でない現状があることから改善していくことが必要ではないだろうか。

3.まとめにかえて

当社アンケート調査からは、性や性被害について話しにくいと感じているのは子どもだけでなく、保護者の側も同様であることが明らかになった。互いに対話をためらっていた、という現在地を理解したうえで、ここから一歩踏み出すためには、迂遠に思えるかもしれないが、まずは日常の対話量を少しずつでも増やしていくことが必要である。

対話をすることで、今まで気が付くことができず楽観視してしまっていたSNSの危険性や悩み等について、子どもも保護者も互いに正確に把握することができるかもしれない。また、日常の対話が増える過程を経る中で「タブー視すべき話題はない」状態になり、「性に関する話題でも話して大丈夫」とお互いに安心感を持つことで、子どもは性被害に遭わないような回避行動を自律的にとり、保護者はトラブルに遭った際に早期に対応できるのではないだろうか。

もちろん、全ての性被害の予防から対応までを子ども自身や保護者だけが一手に引き受ける必要は全くない。子どもが、性や性被害も含め「なんでも」話せるような信頼できる相手は、保護者に限る必要はなく、信頼できる相談先が多様であることが望ましいのは言うまでもない。また、保護者がトラブルを察知した際には、家庭内で抱え込まず専門機関に早急に相談をすることが望ましい。(具体的な相談機関は、国の性犯罪・性暴力対策は高校生と保護者に届いているのか | 三菱UFJリサーチ&コンサルティング (murc.jp)を参照いただきたい。)

これまでリレー形式で記載してきたとおり、性被害によって苦しむ子ども・保護者が一人でも少なくなる社会の実現に向けて、性的同意も含めた包括的性教育の実施や、専門の相談機関の認知度向上も含めた集中強化期間の政策が広く理解され、前進していくことが必要だ。それと同時に、政策だけでなく、性や性被害の対応も含めた親子間の対話が充実し日常が少しでも変化することを期待したい。


1 ] アンケート調査は株式会社クロス・マーケティンググループへの委託により2023年6月15日から6月20日まで実施。アンケートの回答者は高校生300名、高校生の子を持つ保護者300名のネットモニター(両者のネットモニターは個別に募集しており、関係性はない)。高校生300名は学年・性別の均等割り。保護者は子どもの学年で均等割りをし、子どもの性別は男156名、女144名となっている。なお、ここでの男女は出生時の戸籍・出生届の性別であり、高校生のうち8.3%は「別の性別だととらえている」、「違和感がある」を選択している点に留意が必要。
2 ] 特定のアカウントに対し、自分のアカウントの情報や投稿を閲覧不可にするとともに、メッセージなどを送受信できないようにする機能のこと。
3 ] 楽観バイアスとは、木村 敦, 齊藤 知範, 山根 由子, 島田 貴仁(2023)「楽観バイアスが高齢者の特殊詐欺対策行動に及ぼす影響」によれば「自分は他者と比較してポジティブなイベントに遭遇しやすく,ネガティブなイベントには遭遇しにくいと認知する思考の偏り」で性犯罪などの「犯罪被害に対するリスクについても生起する」とされている。
4 ] 正常性バイアスとは、田中 嘉寿子(2017)「性犯罪の被害者の供述の信用性に関するあるべき経
験則について―防災心理学の知見の応用:正常性バイアスと凍り付き症候群―」によれば「少々の
異常を正常の範囲内の変異と理解して無視することによって心的な安定を保つメカニズム」のことであり、性犯罪の被害者にも生じるものとされている。

5 ] SNSアカウントについては「SNSの利用について、あなたはあなたの子どものSNSアカウントを把握している。」の設問に対する回答を、SNSの種類については「SNSの利用について、あなたはあなたの子どもがどんな種類のSNSを使っているか把握している。」の設問に対する回答を掲載している。
6 ] もちろん、このコミュニケーション頻度が高いからといって、親子間の関係が良好であると言い切ることはできない点に留意が必要だ。
7 ] 「性的なトラブルに遭ったときの場面を具体的に想定しながら、対応手順について話し合っている」の設問に対し、「どちらかと言えばそう思う」「大いにそう思う」を選択した層を対応手順について話し合いをする層とし、「まったくそう思わない」「どちらかと言えばそう思わない」を選択した層を対応手順について話し合いをしない層とした。

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