自動車リサイクルにおける再生資源の循環促進に向けて(2)家電リサイクルにおける樹脂の循環型サプライチェーン構築からの示唆(2/3)

2024/08/30 園原 惇史、千賀 太喜、杉山 翔
資源循環
循環経済
サプライチェーン
廃棄物

前回のコラムでは、自動車リサイクルにおける再生資源の循環促進の参考となりうる他製品の事例として、パナソニック株式会社(以下、パナソニック)による樹脂リサイクルの取り組みを紹介しました。本コラムでは、引き続き同社の取り組みのうち、技術的な特長を中心に紹介していきます。

解体・破砕・選別工程における個別技術の開発と組み合わせ最適化

従来、廃家電のリサイクル工程で回収できる樹脂の種類や量は、必ずしも十分とはいえず、特に機械解体(破砕・選別)後のミックス樹脂から高純度な単一樹脂を回収することは容易ではありませんでした。そこで、パナソニックでは、より精緻に選別できる個別技術の開発・実装と、解体・破砕・選別技術の組み合わせの最適化を進め、機械解体由来の単一樹脂の回収量増加を実現しています。

家電リサイクル工場では、まず人手によって廃家電を解体し、フロンガスや水銀等の有害物質の回収と、取り外した部品の選別等を行います。今回の取り組みでは、単一樹脂で構成されている部品は、粉砕工程を経て、「手解体由来単一樹脂」として回収します。複数の素材や樹脂で構成される部品は、破砕・選別工程を経て[ 1 ]、「機械解体由来ミックス樹脂」として回収します。このうち、一部のミックス樹脂は、より精緻な比重選別や近赤外線選別ののち、「機械解体由来単一樹脂」として回収します。これら一連の選別工程でも回収できなかった樹脂は、最終的にシュレッダーダスト[ 2 ]として回収します(図表 1)。

【図表1】家電リサイクル工場における廃家電の処理フロー(一例)
家電リサイクル工場における廃家電の処理フロー(一例)
(出所)パナソニック株式会社・パナソニックETソリューションズ株式会社「家電リサイクル樹脂の循環型サプライチェーンの構築」一般社団法人産業環境管理協会(令和3年度資源循環技術・システム表彰(第47回))資料(https://www.cjc.or.jp/commend/pdf/senshinjirei/r03/03_sys_01.pdf)(最終確認日:2024年8月7日)を基に当社作成

個別技術の事例としては、近赤外線選別によるABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)・PP(ポリプロピレン)・PS(ポリスチレン)の同時選別技術の開発が挙げられます。従来の近赤外線選別装置では、これらの混合樹脂を3回に分けて通すことで、各目的樹脂を回収していました。しかし、パナソニックでは、一度にこれら3種の樹脂を選別することで生産性向上を実現しました。独自の気流制御技術を用いて、コンベアから飛び出す樹脂のばらつきを抑え、3段階のエアノズルで樹脂を回収する技術を開発しました。これによって、純度99%以上のABS・PP・PSを一度に回収することが可能になりました[ 3 ]。このように個々の選別技術を高度化することによって、回収できる樹脂の種類や量を増やしています。

選別技術の組み合わせ事例としては、ガラス繊維入りPPの回収が挙げられます。冷蔵庫に使用されるPPは、比重が小さく水に浮くため、水を媒体とする湿式比重選別で回収可能です。他方、ドラム式洗濯機に使用されるガラス繊維入りPPは、ガラス繊維が添加されることで水より比重が大きくなるため、水を媒体とした湿式比重選別では、その他樹脂と一緒に沈んでしまい、単一樹脂として回収することは困難です。そこで、湿式比重選別の選別媒体の比重を調整し、更に、湿式比重選別の沈降物(比重が大きいもの)を近赤外線選別することにより、高純度なガラス繊維入りPP(図表2:(B)中比重選別PP、(C)重比重選別PP)の回収を実現しました。単独の技術だけでなく、開発した技術を他の技術と組み合わせシステム化することで、目的とする樹脂を高純度で回収している点が特長といえます。

【図表2】選別技術の組み合わせ最適化によるガラス繊維入りPPの選別
選別技術の組み合わせ最適化によるガラス繊維入りPPの選別
(出所)パナソニック株式会社・パナソニックETソリューションズ株式会社「家電リサイクル樹脂の循環型サプライチェーンの構築」一般社団法人産業環境管理協会(令和3年度資源循環技術・システム表彰(第47回))資料(https://www.cjc.or.jp/commend/pdf/senshinjirei/r03/03_sys_01.pdf)(最終確認日:2024年8月7日)より転載

製品設計部門と連携した再生樹脂の開発

選別技術の高度化・組み合わせ最適化に加えて、リサイクルを前提とした設計(循環型設計)の実装や再生材利用基準の見直しを行っていることも、パナソニックの取り組みの特長です。

例えば、ビルトイン食洗機では、同社内の設計部門とリサイクル部門(加東樹脂循環工場)が連携して開発に取り組み、食洗機用の再生樹脂開発と新品製造にかかる再生樹脂利用基準を改訂しています(図表3)。家電設計部門(キッチン空間事業部)がビルトイン食洗機の新品製造における再生樹脂の要件定義を行い、加東樹脂循環工場がその仕様に沿った樹脂のリサイクル方法や材料の調合等を考案しています。

一例として、再生樹脂中の不純物に由来して発生してしまう「黒点」に関する外観品質基準の見直しが挙げられます。製品や樹脂部品の使用部位に応じて、「黒点を不問とする」または「製品状態での可視部においては一定等級の黒点まで許容する」等、基準を変更することで、機能面を維持しつつ、再生樹脂の採用を増やすことに成功しています。

天然原料で製造した樹脂と比較して、特に使用済み製品を原料とする再生樹脂は、不純物等の影響によって、性能や外見上の問題が生じてしまうことがあります。こうした影響を詳細に把握したうえで、製品・部品の性能・安全性・意匠性等を損なわないよう再生樹脂を活用するには、設計部門とリサイクル部門の連携が不可欠であるといえます。

【図表3】家電設計部門とリサイクル部門の協業による製品設計の見直しと再生樹脂の開発
家電設計部門とリサイクル部門の協業による製品設計の見直しと再生樹脂の開発
(出所)パナソニック株式会社・パナソニックETソリューションズ株式会社「家電リサイクル樹脂の循環型サプライチェーンの構築」一般社団法人産業環境管理協会(令和3年度資源循環技術・システム表彰(第47回))資料(https://www.cjc.or.jp/commend/pdf/senshinjirei/r03/03_sys_01.pdf)より転載(最終確認日:2024年8月7日)

自動車リサイクルにおける樹脂の循環促進に向けた論点

パナソニックは、家電リサイクル樹脂の循環型サプライチェーン構築に際して、選別技術の高度化・組み合わせ最適化と、設計部門と協業した再生樹脂の用途開発を進めてきました。こうした取り組みは、自動車リサイクルにおいて、樹脂をはじめ資源の循環を促進するうえでも参考になると考えられます。

解体・破砕・選別工程の高度化・最適化は、多様な素材・樹脂を使用している自動車のリサイクルでも重要になります。家電リサイクルのように、単一樹脂を使用している部品を特定し、あらかじめ当該部品のみを回収・粉砕することで、破砕・選別に投入するエネルギー・工数を抑制して、純度の高い樹脂を回収できる可能性があります。また、自動車にはウレタン等も使用されていることから、破砕後に得られる樹脂が他の素材を巻き込むような形状(綿状など)になってしまう恐れもあるため、精緻な解体を行うことが、自動車リサイクル全体の効率化に寄与することも期待できます。解体のみでなく、破砕・選別工程の技術開発や社会実装も重要です。環境省や(公財)自動車リサイクル高度化財団では、自動車破砕残さ(ASR:Automobile Shredder Residue)の発生抑制や樹脂等の再資源化に向けた実証事業など[ 4 ]に取り組んでいます。

設計部門等との協業も1つの重要な論点です。新車に再生樹脂を活用するために、どの程度の品質や量が必要であるのか、メーカーの設計・製造部門の要求仕様が明確になると、解体業者や破砕・選別業者、素材メーカーが目指す再生樹脂の品質や事業規模の見通しが立てやすくなります。他方、要求基準が明確になっても、解体業者や破砕・選別業者、素材メーカーが基準を満たすことが難しい可能性もあります。こうした場合には、製品に要求される性能・安全性・意匠性などを考慮しながら、サプライチェーンを構成する事業者間での対話を進め、要求基準の調整やこれを満たす製品設計技術・再資源化技術の開発を進めていくことが必要となります。

ここまで技術的な観点を論じてきましたが、循環型サプライチェーンを構築するには、技術のみでは不十分です。解体・破砕・選別技術が向上しても、市場から回収できる樹脂の量や質がばらばらであると、こうした原料を使いこなすことは困難です。また、設備導入等をしても、回収した樹脂等の価値を認めてもらい、対価を受領できなければ、事業として成立しません。パナソニックでは、こうした課題に対して、事業者間が連携する仕組みを構築し、サプライチェーン全体を調整する機能を具備することで対応しています。第3回のコラムでは、こうした「事業者間の連携体制のあり方」に着目して解説します。


1 ]破砕工程で回収された素材の一部は、RPF(Refuse derived paper and plastics densified Fuel)に加工されます。RPFとは、主に産業系廃棄物のうち、マテリアルリサイクルが困難な古紙及び廃プラスチック類を主原料とした高品位の固形燃料のことです。(出所:一般社団法人 日本RPF工業会「RPFとは」https://www.jrpf.gr.jp/rpf-1(最終確認日:2024年8月26日))
2 ]工業用シュレッダーで廃家電や廃自動車を破砕して金属などを回収した後に、産業廃棄物として捨てられるプラスチック・ガラス・ゴムなど破片の混合物のこと。(出所:一般財団法人環境イノベーション情報機構 EICネット「環境用語 シュレッダーダスト」https://www.eic.or.jp/ecoterm/index.php?act=view&serial=1236(最終確認日:2024年8月7日))
3 ]濱田ほか(2016)「気流制御を用いた混合樹脂の3種同時選別技術」Panasonic Technical Journal Vol. 62 No.2 (https://holdings.panasonic/jp/corporate/technology/technology-journal/pdf/v6202/p0205.pdf)(最終確認日:2024年8月14日)
4 ](公財)自動車リサイクル高度化財団ウェブサイト(https://j-far.or.jp/project/)(最終確認日:2024年8月7日)

執筆者

  • 園原 惇史

    政策研究事業本部

    産業創発部 エネルギー・循環経済グループ

    副主任研究員

    園原 惇史
  • 千賀 太喜

    政策研究事業本部

    持続社会部 資源循環グループ

    研究員

    千賀 太喜
  • 杉山 翔

    政策研究事業本部

    産業創発部 エネルギー・循環経済グループ

    研究員

    杉山 翔
facebook x In

テーマ・タグから見つける

テーマを選択いただくと、該当するタグが表示され、レポート・コラムを絞り込むことができます。