事業着手から半世紀 名豊道路の全線開通が間近に迫る全線暫定開通時、約50年間の累積で8兆5,900億円の経済波及効果
はじめに
本コラムでは、事業着手から半世紀を経て、2024(令和6)年度に全線暫定開通が予定されている国道23号名豊道路[めいほうどうろ]を取り上げ、段階的な整備に伴う地域産業の生産額の押し上げ効果(経済波及効果)について経済モデル(RAEM-Light:ラームライト(汎用型空間的応用一般均衡モデル))を用いて算出した結果をご報告します。
算出にあたっては、名豊道路の段階的な開通状況を踏まえ代表的なタイミングを設定し、そのタイミングごとに名豊道路の新たな開通区間の「整備あり」、「整備なし」の状況を想定した地域間所要時間を設定します。その地域間所要時間をインプットデータとして、経済モデルを用いて「整備あり」、「整備なし」それぞれの経済状況をシミュレートし双方の経済状況の差分を名豊道路整備による経済波及効果として示しています。
全線暫定開通時、名豊道路の整備による域内生産額の押し上げ効果は、最初の開通を迎えた1977(昭和52)年から2025(令和7)年までの約50年間の累積額で8兆5,900億円(2015暦年価格で実質化)に達すると見込まれます。
名豊道路は、製造業の物流効率化、第一次産品の流通支援など沿線をはじめとした地域産業の活性化を実現し、産業活動の飛躍に貢献していると考えられます。全線暫定開通を間近に控えて、沿線自治体では産業拠点や交流拠点の新設に向けた動きが活性化しており、名豊道路開通による効果をいち早く、能動的に発現させていく姿勢がインフラストック効果の最大化には重要であると考えています。
(1)事業着手から半世紀を経て全線開通を迎える名豊道路
国道23号名豊道路は、名古屋市と豊橋市を結ぶ延長72.7kmの高規格道路です。5つのバイパス(知立[ちりゅう]、岡崎[おかざき]、蒲郡[がまごおり]、豊橋[とよはし]、豊橋東[とよはしひがし])で構成されており、地域の交通需要や道路ネットワークとの連続性を考慮して段階的に整備が行われました。1972(昭和47)年度の事業着手から半世紀を経て、2024(令和6)年度に全線暫定開通が予定されています。
名豊道路の構想の起源は、名神高速道路や東海道新幹線などが開通する以前の1962(昭和37)年頃に関係市町村から提唱された「愛知海道」にまでさかのぼります。その後、愛知県や当時の建設省において検討が実施され、1966(昭和41)年度に「第二東海道」の一環として基本構想が確立されました。
当時、戦後の高度経済成長期にあって、工業地帯の拡充やモータリゼーションの進展に伴い、急増する国道1号および国道23号の交通渋滞の緩和が名豊道路に期待される大きな役割の1つとなっていました。また、中部経済の中心地と臨海工業地帯(名古屋、衣浦、東三河)やその後背地、農村地帯と工業地帯など都市との結びつきを図り、都市の過密化防止、地域格差の是正、土地利用の効率化に資する道路として地域から大きな期待が寄せられました。
(広域図)
(詳細図)
下図 国土交通省 中部地方整備局 名四国道事務所 ホームページ「国道23号名豊道路 事業紹介」https://www.cbr.mlit.go.jp/meishi/works/meiho/
最終確認日:2024/12/12
(2)地域の経済成長、産業発展へ貢献する名豊道路
まず、経済モデル(RAEM-Light:ラームライト)を用いて、以下の分析ケースごとに名豊道路の開通に伴う生産額押し上げ効果を算出いたしました。次に、名豊道路の整備の進展に従い生産額押し上げ効果が次第に発現すると仮定して、当該年の効果に換算した結果、全線暫定開通時、名豊道路整備による生産額押し上げ効果は、最初の開通を迎えた1977(昭和52)年から2025(令和7)年までの約50年間の累積額で8兆5,900億円(2015暦年価格で実質化)に達します。製造業をはじめとした産業集積が著しい愛知県三河地域の周辺には、港湾、空港、高速道路などの社会基盤(インフラ)が存在しており、当地の成長を支えてきました。これらのインフラが持つ拠点機能やネットワーク機能を発揮させるために、名豊道路は大きな役割を果たしてきたと言えます。
出典:国土交通省中部地方整備局名四国道事務所より提供いただいた情報をもとに当社作成。
出典:国土交通省中部地方整備局名四国道事務所より提供いただいた情報をもとに当社作成。
- 中部5県(長野県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県)を対象とし、各県を広域行政圏や生活圏に準じて細分化し、29地域区分を設定。(長野県5地域、岐阜県5地域、静岡県3地域、愛知県14地域、三重県2地域)
- 2015年の経済規模、産業構造(投入係数)、地域間交易、地域間所要時間データをもとにパラメータを導出。
- 分析ケースごとに算出した単年度あたりの生産額変化をもとに、名豊道路の整備の進展に従い生産額押し上げ効果が次第に発現すると仮定して、当該年の生産額の増加額を計算。
- 経済効果(生産額押し上げ効果)の累積額は国内総生産(GDP)デフレータ[2015暦年基準]をもとに実質化した数値。
(3)沿線地域の産業活動を力強く後押し
分析ケースの1、2、3では、愛知県の【衣浦東部地区】、【豊橋・渥美地区】、【西尾・幡豆地区】などにおいて生産額の増加額が大きく、ケース4では愛知県の【宝飯地区】が該当します。また、産業部門に着目すると、「輸送機械製造業」、「一次金属製造業(鉄鋼、非鉄金属)」、「化学」の生産額の増加額が大きく、「第一次産業(農林水産業)」は生産額の増加率が顕著な産業部門として挙げられます。
事業を担当する名四国道事務所「名豊道路整備効果冊子」によると、沿線には自動車関連の多数のサプライヤーや組立工場が操業しており、約1,000便/日の物流トラックが名豊道路を利用していると言われています。名豊道路の整備によって当地の物流効率化を実現し、顕著な生産額の押し上げに寄与していると考えられます。
また、愛知県の【豊橋・渥美地区】に含まれる田原市、豊橋市は、2022(令和4)年の農林水産省「市町村別農業産出額」でそれぞれ全国第1位(900億円)、第14位(411億円)を誇り、全国でも有数の農業地域です。特に「花き」部門あるいは「野菜」部門の産出額が大きく、「花き」部門に関しては名豊道路沿線の豊川市、西尾市も全国上位に位置しています。名豊道路の開通は生鮮品などの広域的な輸送を支え、市場への流通を促進させたと考えられます。
<沿線地域周辺の地域区分>
再掲<分析ケース設定>
出典:国土交通省中部地方整備局名四国道事務所より提供いただいた情報をもとに当社作成。
(4)名豊道路を生かした持続可能な地域づくりに向けて
名豊道路の開通インパクトとして注目するべきは、名古屋と豊橋間のアクセス向上であり、並行する国道1号を利用した場合は約1時間50分を要しますが、名豊道路を全線利用すると約50分短縮して約1時間で移動することが可能となります。また、全線暫定開通によって、名豊道路に接続する国道23号名四[めいし]バイパスや国道1号潮見[しおみ]バイパス、伊勢湾岸[いせわんがん]自動車道などとあわせてスムーズな移動を実現する広域な道路網が形成されます。
道路網は地域と地域を空間的に結びつけるだけではなく、時代を超えて地域社会に効果をもたらすインフラであり、開通後の地域社会からさまざまな価値が創出されると言えます。各個人、各企業、地域(自治体等)が置かれている状況を踏まえて、名豊道路の全線暫定開通を契機として、道路をどのように使うのか、開通インパクトを発揮させるための環境が整っているのか、を意識することが重要です。インフラストック効果が勝手に発現するのではなく、自らの行動や活動にひも付けて能動的に効果を発現させる姿勢が、インフラストック効果の早期発現と最大化へとつながり、持続的な地域づくりに貢献します。
おわりに
本コラムの執筆に際して、名豊道路の事業を担当する国土交通省中部地方整備局名四国道事務所様の協力のもと、事業概要や経済効果の検討成果の一部を提供いただき、名豊道路の開通以後の経済効果について累積額の計算を本コラム向けに行いました。執筆にご了承いただきました名四国道事務所様および関係者の皆さまに謝意を表します。
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