停滞感を強める中東欧経済~再びユーロ圏にとってのリスクになる可能性~

2012/11/14 土田 陽介
調査レポート

○財政・金融問題を受けてユーロ圏経済は低迷が続いているが、その傍らで中東欧の経済も停滞感を強めている。

○2000年代の中東欧経済は、2008年秋のリーマン・ショック直前まで高成長を記録した。ユーロ圏向けを中心に堅調であった輸出に加えて、先行きのEU加盟を見越してユーロ圏などから流れ込んだ多額の資本に刺激された内需(個人消費や住宅・建設投資など)が、中東欧の経済成長を牽引した。もっとも、そうした成長パターンはリーマン・ショックによって大きな打撃を受け、中東欧経済は大幅なマイナス成長に陥った。そして、その後の景気拡大ペースも緩慢なものに留まった。さらに、財政・金融問題の深刻化を受けてユーロ圏経済が低迷する中で、足元にかけて中東欧景気の停滞感が一段と強まっている。

○こうした中東欧景気の低迷は銀行融資の不調によって促されている。特に、それまで非常に活発であった家計部門向け融資の停滞は、経済成長の牽引役であった個人消費の増勢を金融面から下押ししている。その背景には(1)銀行の資金調達の一段の困難化、(2)EUにおける金融行政の厳格化、(3)不良債権問題の深刻化、などの要因があるが、これらはユーロ圏サイドの財政・金融問題と密接に関係している。そのため、中東欧側の政策対応だけでは事態の好転が困難であり、ユーロ圏の問題が収束しない限り、中東欧の金融環境が改善し、それが景気の復調につながるとは見込みがたい。

○中東欧の経済・金融はユーロ圏と極めて密接な関係にある。目下のところ小康状態にあるとはいえ、ユーロ圏を中心とする欧州の財政・金融問題が引き続き世界経済の成長のリスク要因である中、警戒すべきは、仮に銀行破たんなど何らかのショックに伴って中東欧の経済が動揺し、それが引き金となって、ユーロ圏の問題が再燃する危険性が存在することである。そのような事態を防ぐためにも、停滞感を強める中東欧経済に対する支援枠組みの拡充とその機動的な運営の必要性が高まっていると言えよう。

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