ドイツのマネーフローから見たEU経済

2013/04/19 土田 陽介
調査レポート

○ドイツは欧州連合(EU)の盟主的存在であり、その経済もまたEUの中心である。既往の債務問題のなかでもドイツの長期金利は低水準で推移したが、その主な背景には同国の貯蓄超過(経常黒字)体質があるといわれる。本稿の主な問題関心は、そうしたドイツのマネーフロー(国際収支)の観点から、EU経済の構造的な特徴を考察することにある。

○1990年代のドイツの経常収支は、東西再統一の影響などから慢性的な赤字であったが、2000年代以降は黒字が続いている。貿易収支や所得収支の黒字幅が拡大したことや、サービス収支の赤字幅が縮小したことがその主な理由である。また経常黒字の大半を、EU域内との経済取引から計上し続けている点でも特徴的である。

○他方で資本収支は、経常収支の動きに対をなすかたちで2000年代に入って赤字基調が定着した。資本取引もまた一貫してEU域内向けを中心に行われてきたが、債務問題が悪化する過程で金融機関による貸付が減少する一方で、ドイツの中央銀行であるドイツ連邦銀行によるユーロシステム向け貸付が増加するといった構造的な変化が発生じた。

○ドイツが貯蓄超過に転じる上で、通貨ユーロの導入(1999年)が果たした役割は非常に大きい。そして、ユーロ導入後のドイツの経常黒字体質(同国以外のEUの国の経常赤字体質)は、EU拡大を受けた経済取引の活発化に伴って発生した役割の分担に過ぎず、ドイツからEU域内に資本が輸出される限りにおいて、経済取引の1つのモデルとして成立するといえよう。

○もっとも、そうしたマネーフローは、経常赤字国(つまり重債務国)を中心に国債のデフォルト懸念を広める原因ともなった財政面を中心とする経済政策の不統一のために、内外のショックに対してぜい弱であった。重要なことは、EU経済の活力の証左でもあるマネーフロー上の不均衡の是正を目指すのではなく、あくまでユーロ圏共同債の発行など経済政策の統一を推し進めることであると考えられる。

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