○タイ経済は、リーマンショック(2008年)と大洪水(2011年)という二度のショックを乗り越え、その堅調ぶりが注目されている。大洪水直後に大幅に落ち込んだ輸出と投資はV字型回復を遂げており、個人消費も拡大傾向が続いている。
○タイでは、物価が安定し、失業率も低い。インフレ率と失業率がトレードオフの関係にあるとする経済学の議論から見れば、低インフレと低失業率が同時に成立しているタイの例はレア・ケースであると言える。タイの失業率の低さは、農業部門が、工業部門やサービス部門からの離職者の雇用の受け皿として機能することが大きな原因と考えられている。
○最近のタイ政府は、ポピュリズム的な財政政策が目立つが、財政規律を喪失したわけではなく、公的債務残高も他の新興経済国と比べればそれほど多くはない。また、金融セクターは健全であり、過剰な対外借入れもない。こうした財政・金融面の健全性はタイ経済の大きな強みであると言える。
○タイ経済の成長の源泉は、外資導入による輸出指向工業化であり、それを支えてきたのが、投資環境の良さであった。整ったインフラや、幅広い産業集積の存在が、タイの強みであり、これが、日本企業を中心に多くの外資系企業を吸引する原動力であった。タイの投資環境は、「進出しやすさ」という観点から総合的に見れば、中国やベトナムよりも優れていると言える。
○タイの近年の経済成長率は、トレンドとして概ね4~6%であるが、これは、ほぼ潜在成長率に近いと考えられる。タイ経済には、特に目立った構造的なボトルネックが見当たらないため、今後も、中期的に4~6%程度の成長率を維持できる可能性が高い。
○タイ経済の長期的な課題は、低賃金労働力依存型の産業構造からの脱却であり、その成否が、今後のタイの潜在成長率を決めるカギになる。しかし、それがうまくいかない場合には、タイ経済は「中進国のワナ」にはまり、停滞状況に陥る可能性もある。
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