イスラエル経済の現状と今後の展望~ 知られざる中東のハイテク・ベンチャー大国 ~

2013/10/29 堀江 正人
調査レポート

○最近、地中海地域の新興国の中で、エジプトやトルコといった大国の混乱をよそに、イスラエル経済の堅調ぶりが光っている。イスラエル経済は、2001~2002年に、ITバブル崩壊とパレスチナ住民の対イスラエル蜂起によるダブルパンチでマイナス成長を余儀なくされた。しかし、それ以降のイスラエルは堅調であり、リーマンショック翌年の2009年も、通年の経済成長率はプラスを維持した。

○イスラエルの財政金融政策は、先進国並みの健全性を維持しつつ運営されており、これが、リーマンショック後のイスラエル経済の底堅さをもたらした大きな要因になったと言える。また、近年、地中海沖で天然ガス田が発見されており、採掘が本格化すれば、イスラエルの経常収支を改善し、GDPを押し上げると期待される。そうなれば、イスラエル経済の安定性はさらに高まると考えられる。

○イスラエルの景気拡大の原動力は輸出であり、輸出の中心は、ハイテク産業である。特に、電子部品、制御監視機器、医薬品の3業種で多額の貿易黒字を稼いでいる。また、イスラエルは、降雨量が少なく自然条件面で農業に適していないにもかかわらず、灌漑技術や品種改良技術の高さなどに支えられて、農産物輸出も盛んである。イスラエルの輸出に占める農産物の割合は日本の6倍にも達する。

○最近のイスラエル経済を活性化している要因として、IT関連やライフサイエンス分野を中心とするハイテク・ベンチャー企業群の重要性も見逃せない。イスラエルのハイテク・ベンチャー企業の生み出す製品・サービスは、軍事技術を民間転用しているケースの多いことが特徴的である。イスラエルは、周囲を敵対国に囲まれているため、本来民間部門で働くべき多くの人材が軍事部門に取られてしまうというハンディキャップを負っている。しかし、イスラエルは、それを逆手にとり、軍事部門で培った高い技術を民生用に転用することによって、ユニークな製品・サービスを数多く生み出している。

○イスラエル経済の問題点は、他のOECD諸国に比べて就業率が低いことである。就業率を引き上げることができれば、イスラエルの経済成長率はさらに向上する。就業率を上げるには、特に、労働を拒否する超正統派ユダヤ人(ハレディーム)の労働参加をいかに促すかが焦点となる。

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