○本レポートは、金融緩和からの出口戦略に耐えうる体力を十分に有しているかどうか、その景気回復がサステナブル(持続可能)なものであるのかという観点から、英国経済の現状を包括的に分析することを試みるものである。
○確かに、足元の英国景気は加速している。もっとも、供給サイドの現状を、その中心である金融部門と不動産(含む建築)部門に注目して分析すると、両部門の回復は好調な住宅市況にけん引された限定的なものであることが分かる。また、そうした住宅の好調さは、政府による購入刺激策や中央銀行であるイングランド銀行(BOE)による貸出促進策が需要を刺激した結果であると考えられる。したがって、金融・不動産部門の回復は、調整を終えた結果の自律的なものとは評価しえない。
○次に、需要サイドの中心である個人消費に関して、それを取り巻く環境の現状に注目すると、実質賃金の減少が続くなかで、リーマン・ショック以降は住宅価格の上昇がかつてのように消費の増加につながっていない可能性が指摘できる。規制強化の流れなどから金融機関がリスク回避的となり、リモーゲージの拡大が抑制されているため、住宅価格の上昇が個人消費を刺激する力が弱まっているとみられる。そうしたなかで、個人消費の腰もまた力強さに欠けているといわざるをえない。
○以上の検討から明らかなように、英国の景気は、足元で加速しているとはいえ、依然ぜい弱性を有している。住宅価格の上昇が消費を刺激するという特有のサイクルがまだ機能不全であるなかで、現状の英国景気がサステナブルなものであるとは評価しがたい。加えて、巨額の公的債務をBOEが低金利政策で支えている現状を考慮すれば、BOEの出口戦略もまた他の主要中銀と同様に慎重なものとならざるをえないだろう。
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