○ブラジル経済は、ルーラ政権発足(2003年)以降の10年間で、通年ベースの成長率がマイナスになったのは一度(2009年)だけであり、概ね堅調に推移してきた。ただ、四大新興国であるBRICsの中で見ると、ブラジルの経済成長率は、他の3カ国よりも明らかに低い。
○ルーラ政権発足後のブラジル経済を回復させた最大の原動力は、レアル高と金利低下であった。これが追い風となり、また、金融へのアクセスが普及したことや、低所得層への給付金などの効果にも支えられ、個人消費が盛り上がった。こうした個人消費の堅調な増加がブラジルの景気拡大を支えてきた。
○個人消費が盛り上がる一方で、投資については低調に推移しており、ブラジルの投資率は、南米主要国の中では最も低い。ブラジルの投資拡大を妨げているのは、ルーラ政権以降低下したとはいえ依然として高水準の金利、高い税率、政府の経済活動への過度の介入といった構造的・制度的要因である。
○ブラジルの輸出は、鉄鉱石・大豆などの一次産品の中国向け輸出拡大によって牽引されてきたが、鉄鉱石価格下落により、足元の貿易黒字は縮小しつつある。その影響で、経常収支は赤字に転落しているが、金融収支が黒字であるため、外貨準備の目立った減少は見られない。ブラジルの外貨準備水準は、短期対外債務のカバー率や輸入支払能力などの指標から見て、特段の問題はなく、安全圏と言えるだろう。
○日本企業は、非アジア新興国の中でブラジルを最も有望視している。世界第5位の人口を有し、今後20年間、労働力人口増加が予想されるブラジルは経済成長と消費市場拡大のチャンスに富んでいる。
○他方、ブラジルは、所得分配の不平等性が著しく大きいため、競争や成長を促進する政策を採れば、ますます所得格差が広がってしまうというジレンマを抱えている。また、ブラジル・コストと呼ばれる制度的・構造的な問題が投資拡大を妨げており、これを解決するのは容易ではない。こうした点を考慮すれば、ブラジル経済がポテンシャルに富んでいるのは事実だが、今後、すぐに高成長軌道に乗ることができるかと言えば、それはかなり難しいと言わざるを得ないだろう。
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