○南米のブラジルやアルゼンチンで経済の先行きに懸念が浮上する中、「南米らしくない」健全性と安定性を示すチリ経済が注目されている。チリのソブリン格付けは、中南米地域で最高ランクとなっており、オランダなどの欧米先進国とほぼ同等である。
○チリ経済は、中長期的に安定した成長を続けており、また、ブラジル・アルゼンチンで発生したような通貨危機やハイパーインフレーションを経験したこともない。最近の景気は、個人消費主導で安定的に推移しており、それを支えているのは、雇用所得環境の良好さとペソの為替相場の高止まりである。
○チリ経済の特筆すべき点として、南米随一ともいえる財政金融面の健全性があげられる。チリは、1990年からインフレターゲティング制を導入、インフレ率は過去20年間一桁台に収まっており、高インフレ国が多い南米では稀有な存在といえる。また、財政規律も維持されており、財政はプライマリーバランスも総合収支も両方プラスである。政府部門の債務残高の対GDP比率も、南米主要国の中ではチリが最も低い。
○最近、輸入増による貿易黒字縮小などが原因で、チリの経常赤字が拡大しており、経常赤字の対GDP比率は、いわゆる「フラジャイル・ファイブ」の国々にも匹敵するほど大きい。しかし、経常収支赤字は、金融収支黒字でオフセットされ、外貨準備が大きく減るような状況ではない。
○チリは、世界最大の銅産出国であり、銅の価格がチリ経済に大きな影響を与え、ペソの為替相場も銅価格の動きにほぼシンクロナイズしている。高水準の銅価格が、良好な雇用所得環境とペソ高をもたらし、チリの景気を拡大させている。これが最近のチリ経済の堅調さの構図である。
○チリが「南米らしくない」堅調な発展を遂げてきた最大の理由は、米英型の新自由主義に基づく経済運営を一貫して続けてきたためである。自由化・対外開放・健全財政を軸とする新自由主義的な経済政策のもとで、公共部門が肥大化せず経済の効率性が高まり、チリ経済の健全性・安定性がもたらされたのである。新興国の経済運営に対する投資家の選別の眼が厳しくなる中、チリは経済運営の健全性という点では新興国の中でもトップクラスの国として今後も注目されそうである。
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