○フィリピン経済は、1960~1990年代にかけて長期低迷に陥っていたが、近年は好調であり、2012年以降の経済成長率はASEAN主要国のなかでもトップクラスである。需要面で景気拡大を牽引しているのは個人消費であり、それを支えているのが、在外フィリピン人労働者(OFW)からの送金である。
○個人消費の好調を支える要因として、ペソ高の影響も見逃せない。このペソ高の背景には、国際金融界のアキノ政権への信認の高さがある。2010年に就任したアキノ大統領は、汚職の撲滅や財政健全化などの公約を実行に移し、国民の高い支持を得ている。
○フィリピンは、実体経済面だけでなく、物価や財政の面でも健全さを維持している。最近のインフレ率は中銀のターゲットレンジ(4.0%±1.0%)に収まっており、安定的に推移している。フィリピンの財政赤字・公的債務残高の対GDP比率は近隣諸国に比べて低く、財政規律も保たれている。
○フィリピンの経常収支は黒字であるが、収支構造が近隣諸国とは異なり、貿易赤字をサービス収支・所得収支の黒字でオフセットするというパターンである。サービス収支黒字を支えるのは海外向けIT-BPOサービスによる収入であり、所得収支黒字を支えるのはOFWからの送金である。
○フィリピンは所得格差が大きく、所得格差縮小の糸口もつかめない状況である。また、フィリピンは、近隣諸国に比べて、海外からの製造業への直接投資流入が少ないため、雇用創出が不十分で失業率が高く、それが原因で1000万人ものOFWが海外で働かざるを得ないという構図になっている。フィリピンへの直接投資が少ない理由は、政治が不安定で治安が悪いというネガティブなイメージが日本企業をはじめとする外国投資家の間で定着してしまったためである。
○フィリピンは、ASEAN第2位の人口と国民の英語運用能力の高さという強みがあり、投資する魅力を備えた国である。今後、フィリピンへの直接投資が拡大するには、信頼度の高い安定した政治を中長期的に持続できるかどうかが大きなカギであり、その意味で、2016年の次期大統領選挙でどのような政権ができるのかが注目される。
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