○景気回復の足取りが鈍い日本と欧州(ユーロ圏)が量的緩和政策を継続している一方、景気が着実に拡大している米国と英国は量的緩和政策を既に終了しており、2008年秋に生じた金融危機後初となる利上げを見据えている。また利上げ後に米英中銀は、量的緩和政策によって膨張したバランスシートの縮小にも、順次取り組むとみられる。本稿は、共通する課題が多い米国と英国における「正常化」後の金融政策運営の在り方を展望することを試みる。
○連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長の発言や最新の国際金融情勢などから判断すると、米国の利上げは2015年12月の連邦公開市場委員会(FOMC)で行われる可能性が高い。一方、英国の利上げのタイミングは、スコットランド総選挙やEU離脱を問う国民投票などとの兼ね合いから、16年7月の金融政策委員会(MPC)以降になる見通しである。もっとも、この論点以上に注目されるのが、その後の追加利上げがどのようなテンポで行われるのか、そしてどの程度の水準で打ち止めになるのか、ということである。
○追加利上げテンポは、金融危機前の引き締め局面に比べると緩やかに留まる公算が大きい。最大の理由は、米英両国において、先行きのインフレ率が金融危機前よりも小幅に留まると考えられるためである。また金融システムに与える影響を勘案しても、FRBやBOEは追加利上げに慎重にならざるを得ない。自らが購入した大量の証券資産がバランスシートに残っているなかで、徒に追加利上げや証券資産の売却を行えば、金利が急上昇して金融システムが不安定な状態になると警戒されるためである。
○米英中銀が利上げに向かう意図は、過熱した景気を抑えることにあるのではなく、あくまで金融政策の「正常化(伝統的な金融政策への回帰)」にある。バランスシートが肥大ななかでの利上げが経済成長や金融システムにどのような影響を与えるかも定かではない。そのため、米英における「正常化」後の金融政策は、金融危機以前にも増して経済成長と金融システムの安定に配慮した性格にならざるを得ない。こうしたなかで、インフレターゲットは性格の見直しを余儀なくされ、また金融政策とプルーデンス政策は今まで以上に緊密な関係となるだろう。
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