エクアドル経済の現状と今後の展望~「ドル化」したエクアドル経済のゆくえ~

2016/01/27 堀江 正人
調査レポート
海外マクロ経済

○南米大陸の赤道直下に位置するエクアドルは、2000年に自国通貨を放棄し米ドルを法定通貨とする「ドル化政策」を採用したことで知られる。2007年には、「反米左翼」のコレア政権が誕生し、米国との関係が悪化したが、エクアドル政府が脱ドル化する気配はない。もし、いま脱ドル化すればハイパーインフレーションが発生し経済破綻する可能性が高いからである。

○エクアドルは、同じ反米左翼政権のベネズエラと比べて経済が堅調で、物価も安定している。これは「ドル化」がもたらした大きなメリットである。他方、ドル化による大きなデメリットとして、独自の金融政策ができなくなったことが挙げられる。米ドルを法定通貨としているエクアドルでは、中銀が、金利をコントロールすることができず、また、通常の中央銀行が持っているはずの「最後の貸し手」機能も持っていない。

○経済が「ドル化」しているエクアドルでは、十分な量の米ドルを国内に流通させることができないと経済活動に支障が生じるため、ドルの確保が経済政策の至上命題になってしまう。エクアドル政府は、国際収支悪化で米ドルの国外流出が加速するリスクが高まると、輸入制限や資本移動規制など、なりふりかまわず規制強化を実施せざるを得ない状況に追い込まれる。これは、ドル化した経済の宿命とも言える。

○エクアドルの貿易相手国は輸出入ともに米国がトップであり、政治的には反米左翼なのに貿易面では米国への依存度が高いという矛盾した状況にある。エクアドルの最大の輸出品目は原油であり、輸出全体の5割を占める。原油価格下落のため、エクアドル経済は、経常赤字拡大や政府歳入減少などに見舞われ、苦境に立たされている。

○コレア政権が「大きな政府」を指向し財政支出を増加させた結果、プライマリーバランス赤字が拡大し、公的債務残高の対GDP比率も上昇してしまった。コレア政権による社会主義的な「大きな政府」は、原油価格が下落してしまったことで、維持するのが困難な状況に追い込まれている。

○コレア政権の社会主義的な経済運営は、ドル化と整合的でなく、市場重視型の経済運営に軌道修正すべき岐路にさしかかっている。最近のコレア政権の動きには、従来の方針を変えようという兆しも見えている。

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