○多くの新興国で景気が悪化する中、カンボジアは、アジアでも屈指の7%という高い経済成長率を維持している。過去20年間のカンボジアの経済成長の牽引役は、主に、輸出向け縫製業を中心とする製造業と観光業を中心とするサービス業であった。足元の景気拡大は、原油価格低下の恩恵も受けている。
○カンボジアは、リエルという独自通貨があるにもかかわらず、金融・商業活動における取引で米ドルが広範に使用されており、国内経済が、事実上、「ドル化」している。「ドル化」が進んだ主な原因は、リエルに対する国民の信認が低いことと、米ドルの保有・支払・送金等に関する規制が少ないため個人や企業がドルを使いやすいことである。
○「ドル化」による大きなメリットは、物価が安定することと、外国投資家から見て為替リスクがないため投資誘致に有利なことである。他方、「ドル化」のデメリットは、中銀が、独自の金融政策を実施することができず、また、本来持つべき「最後の貸し手機能」も発揮できないことである。
○経済成長の重要な牽引役であった輸出は、米国と欧州向けの縫製品が主体である。こうした縫製品輸出増加は、後発開発途上国であるカンボジアに対する先進国の関税免除という恩典に支えられたものだった。
○近年、中国やタイの人件費上昇、労働市場逼迫などを背景に、日系企業が「チャイナ・プラス・ワン」「タイ・プラス・ワン」の生産拠点として人件費の安いカンボジアへ進出する事例が増えている。カンボジアの裾野産業が未発達で現地調達率が低いため、カンボジアに進出する日系製造業は、原料・素材を輸入しカンボジア国内で労働集約的な加工のみを行って輸出するというスタイルが主流である。
○投資先としてのカンボジアの大きな魅力は人口動態面にある。国連の人口予測では、労働力人口が2070年まで増え続け、総人口も2080年まで増え続けるとされている。他方、カンボジアの投資環境における主な問題は、低いとはいえ人件費が最近急上昇していること、労働者の教育水準が低いこと、電力コストが周辺国よりも高いこと、などである。こうした課題の解決に向けては、日本などによる支援が今後も重要である。
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