○マイナス金利導入後、EU圏全体の貸出金利は、住宅ローン、大・中堅企業向け、中小企業向けともに低下している。国別に見ると、中小企業向け貸出において、イタリア、スペイン、ポルトガルといった南欧諸国の金利が大幅に低下しているのに対し、ドイツ、フランスでは、マイナス金利導入後も貸出金利は横ばいに止まる。一方、預金金利については、法人・個人預金ともに低下している。
○欧銀はマイナス金利導入により、貸出金利が低下したものの、預金金利も低下しているため、預貸利鞘は縮小していない。一方、邦銀の場合、貸出金利、預貸利鞘は、欧銀と比べ著しく低い水準にあることに加え、邦銀の預金金利水準はゼロ近辺まで低下し下げ余地がないことから、マイナス金利による金利低下分は、貸出金利・預貸利鞘の低下に直結し、収益力が低下することとなる。マイナス金利導入は、欧銀より邦銀のほうが経営に与える影響は大きい。
○貸出残高については、国別にみると、スペイン・ポルトガルについては、依然前年比マイナス状態が続いている。貸出金利の低下は、貸出残高の増加にはあまり結びついていない。
○通貨別に運用・調達状況を見ると、運用面では貸出・債券ともにユーロ建てのシェア低下・ドル建てのシェア上昇が目立つ。また、調達面では、ドル運用が増加する中、低利安定調達手段であるドル預金調達は容易ではないため、債券による調達でカバーしていることを伺わせる。運用調達バランス(運用/調達)については、ドル建てで上昇が目立ち、欧銀がスワップ市場への依存度を高めていることを伺わせる。しかし、欧銀のスワップでのドル調達コストは上昇し、欧銀によるドル資産運用の採算は悪化している。
○貸出期間別状況を見ると、長期貸出のウェイトが高まっている。これは、日本と異なり、EU圏における量的緩和政策の開始は2015年3月と最近になってからであり、10年債の利回りがプラスとなるなど、イールドカーブがスティープ化したままであるため、金融機関は貸出や運用の長期化により収益を確保する余地があったことも影響していると思われる。
○マイナス金利導入による貸出金利低下は、欧銀よりも邦銀において収益の悪化につながりやすい。また、イールドカーブのフラット化が進み貸出・運用の長期化の余地があまりないため、海外投資にシフトすることも考えられるが、足元、邦銀の外貨スワップ調達コストは欧銀以上に上昇し、海外投資の採算を確保することも難しい。
○日本についても時間が経てば経つほど、金融システムへの悪影響が増幅する可能性がある。日本の金融システム安定のため、少なくともマイナス金利の拡大に対しては慎重な対応が求められると思われる。
○また、これまで、日銀の量的緩和政策は、邦銀の日銀預け金の増加が支えてきたが、今後、現金の大幅増加は引き続き容易ではなく、邦銀の、日銀預け金についても大幅に増やすことは難しい。従って、マネタリーベースの拡大を持続することは今後難しくなると思われ、量的緩和は早晩限界を迎えよう。従って、量的緩和の縮小が今後課題となってこよう。
テーマ・タグから見つける
テーマを選択いただくと、該当するタグが表示され、レポート・コラムを絞り込むことができます。