○タイ経済は、軍部のクーデター(2014年5月)や輸出不振の影響で、2014年頃から、他のASEAN主要国と比べて低迷状態が続いている。個人消費は、消費者心理が盛り上がらず、力強い伸びに欠けている。設備投資と企業景況感も弱い動きが続いている。タイ経済は、原油価格下落による恩恵もあって底堅さは見せているものの、景気の本格回復は、輸出が上向くのを待つしかない状況である。
○生産活動には、回復の明確な兆しは見られず、稼働率も低調である。その最大の原因は輸出の不振である。一方、観光業は、2014年のクーデターや2015年の爆弾テロの影響で一時的に落ち込んだが、すぐに回復し、中長期的には成長トレンドを維持している。
○タイの金融政策は、インフレターゲットを基軸に運営されており、現在のターゲットレンジは、CPI前年同月比伸び率ベースで1.0~4.0%である。2016年5月時点の政策金利は1.5%であり、中銀は、2016年平均のCPI上昇率を0.6%と予想していることから、今後、政策金利は、さらなる引き下げの余地があると言える。一方、タイの財政運営は、ASEAN主要国と比較しても健全であり、財政規律は守られている。このことから、タイは、今後、何らかの経済的困難が発生した場合にも、財政・金融政策面で対応できる余地がかなりあるといえる。
○タイの経常収支は黒字基調であり、輸出低迷が続く中でも原油価格下落の恩恵を受けて経常黒字を確保している。外貨準備も潤沢であり、対外債務返済負担も小さいことから、国際収支危機に陥る可能性も低い。
○タイでは、これまでも軍事クーデターが頻発しているが、それが中長期的に経済活動を落ち込ませることはなかった。今後も、軍事クーデターが発生する可能性は排除できないものの、それがビジネス活動に影響するとしても一時的なものにとどまり、在タイ日系企業の生産や投資を継続不能な事態に陥らせることはないと考えられる。
○タイの輸出における最大の品目はHDDであったが、最近では、自動車関連品目の比重が高まりつつある。その背景として、タイが自動車生産台数で英仏と肩を並べ、アジアのデトロイトと称されるほどの有力な自動車生産国に成長したことがあげられる。タイ政府は、今後の輸出の目玉として、ハイブリッド車や電気自動車などのエコカーの拡大を狙っている。
○タイは、インフラが整い、産業集積があることから、投資先として日本企業の人気が高い。しかし、人件費の上昇や労働者不足などに加えて、周辺国のインフラ整備が進んだこともあり、今後、外国からの投資が周辺国へシフトする可能性がある。このままでは、タイ経済が「中進国の罠」に陥る恐れがあるため、タイ政府は、産業構造を高付加価値化するべく、先端産業の誘致を図っている。しかし、それを実現するには、理科系人材の不足などがボトルネックとなるため、ハードルはかなり高いと言わざるを得ない。
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