○世界の新興国の景気が減速する中、好調を維持するインド経済に注目が集まっている。過剰投資が行き詰まって景気が鈍化する中国や、景気後退が続くロシアとブラジルを尻目に、インド経済は、BRICsの中で最も高い7%前後の成長率を示している。
○インド経済の好調は、2014年の総選挙で圧勝し国民会議派から政権を奪還したBJP(インド人民党)のモディ政権への期待感の高まりが反映された側面もあった。ただ、モディ政権は際立った改革成果は上げておらず、特に、投資環境改善の目玉と期待された土地収用法改正とGST導入が先送りされたのは痛手となった。しかし、公約を少しずつではあるが地道に実行しているとして、モディ政権への国民の支持は失われていない。
○インドは、2008年頃から、インフレ率の高止まりに苦しみ、2012~2013年には、CPI上昇率が10%を超える局面もあった。インフレ率上昇は、低所得層の多いインド人の家計を圧迫し、また、中銀の景気テコ入れのための利下げを困難にしてきた。しかし、2014年秋以降、原油価格下落などによりインフレ率が急速に低下したことを受けて、中銀は、2015年1月から利下げに転じた。これが、インド経済への追い風となっている。
○インド経済の最大の牽引役は個人消費であるが、一部の耐久消費財は大都市部で普及が一巡し伸び悩む兆候も見られる。今後の個人消費拡大の主役は地方都市や農村部であり、中長期的に見れば、大きく拡大するポテンシャルがある。
○投資率は足元で低下している。これは、土地収用関連トラブルや許認可の遅さなどのために多くのインフラ関連プロジェクトが建設途中で止まってしまった影響が大きいと見られる。投資を回収できなくなったインフラ関連企業の資金繰りが悪化し、金融機関もインフラ事業に多額のエクスポージャーがあり身動きできなくなっている。そうした状況のため、投資を増やせなくなっていると考えられる。
○インド経済は、今後の成長余地は大きいが、財政赤字や経常赤字などのボトルネックも抱えている。財政赤字は、インドの高インフレ体質やインフラ整備不足の主因であり、経常赤字は、為替相場下落、インフレ率上昇、国際収支危機などを誘発しやすく、インド経済のリスクファクターである。経常赤字は海外からの資本流入でオフセットされているが、もし、海外からの資本流入が減れば、危機発生リスクが高まる。これを防ぐには、改革を進展させ投資環境を改善することによって、インドへの資本流入を持続させることが必須条件である。
○インドは、今、日本企業が最も注目し期待する新興国である。しかし、実際のインド市場は、利益確保が難しい。インド市場では、所得水準が低いので低価格商品が売れ筋となるため、そもそも収益が少ない。しかも、インフラが未整備で、税制が複雑であるなど、ビジネス効率を低下させる要因が多く、これらは、コストを膨張させる。このため、インド市場に進出しても、低収益・高コストという状況に陥りがちで、簡単には儲からない。ただ、インドの実情に合わせ時間をかけてビジネスモデルを調整していけばやがて儲かるようになる。つまり、インドでのビジネスの要諦は「我慢比べ」なのであり、日系企業は長期戦覚悟でインド市場攻略に取り組む必要があろう。
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