○英国(ロンドン)は米国(ニューヨーク)と並び、金融取引を多く抱える国際金融センターとして、圧倒的な世界1、2位の地位を確立している。また、リーマンショック前から、シェアが高まっている金融取引が多く、国際金融センターとしての地位やプレゼンスが近年になってより高まっていることがわかる。
○EU内での英国のシェアを見ると圧倒的なシェアである。また、グローバルベースで見たユーロ建て取引の英国のシェアは、欧州各国や米国を凌駕している。英国が、ユーロ建ての金融取引においても集積地であることが伺える。
○経済の面で見ると、金融サービス業務は、英国のGDPの約12%を創出し、約218万人(英国の全雇用者の7.4%)が金融サービスや関連専門サービス業に従事している。うち半分以上の52%は、会計・税務、経営コンサルタント、法務といった関連専門サービス業であることから、金融サービスが他の専門サービス業の広がりにいかに貢献しているかがわかる。金融セクターは、英国の基幹産業であり、英国経済や雇用創出に大きく貢献している。
○主にロンドンで業務展開している外国金融機関については、海外80カ国から1,400もの金融サービス業が終結し、16万人(うち外国人4万人)が働いている。この大半は投資銀行業務に従事していると思われる。
○英国のEU離脱が金融サービス業に及ぼす影響について考えられるポイントは4つ
○1つ目は、シングルパスポートの取り扱いである。シングルパスポートとは、1つのEU加盟国で免許を得た金融機関は、他のEU加盟国で自由に支店開設や金融商品の販売が可能となる制度であるが、英国がEUを離脱し、シングルパスポートの適用がなくなれば、これまで英国の拠点からEU域内のクロスボーダー取引を行ってきた金融機関は、EU域内での免許取得や拠点開設が新たに必要となる。英国は、英国にとって都合がよい協定(EU市場へのアクセス確保、EUへの拠出なし、人の移動の自由の制限)をEUと結ぼうとするであろう。ただし、EUが英国の要望を全部受け入れる可能性は極めて低い。
○2つ目は、外国金融機関の英国からの移転による雇用喪失で、EU市場へのアクセスが制限された場合、外国金融機関を中心に、ユーロ建て金融取引についてはEU域内であるパリやフランクフルト、ダブリン等に業務の拠点を移転すると思われる。その場合、大手英銀の英国投資銀行部門や外国金融機関の従業員の20%である3.5万人、経営コンサル、法務、会計・税務といった雇用も含めれば、約7万人は英国外に移動する可能性があると思われる。
○3つ目は、英国に本社・本部を置く企業の移転の恐れで、グローバルトップ企業250社のうち、本社あるいは欧州統括本部をロンドンに置く企業が40%を占める。こうした企業については、欧州統括本部をEU域内に移転させる可能性が今後高まるであろう。
○4つ目は、英金融当局の国際的な発言力低下である。 これまで、英国の金融当局である中銀イングランド銀行(BOE)や金融監督当局PRA(BOE傘下)は、中央銀行総裁会議やバーゼル委員会などの場で強い発言力を有し、国際金融規制に関しては、規制強化の方針を打ち出しバーゼル規制の策定に大きな影響を及ぼしてきた。しかし、ロンドンの国際金融センターとしての地位が低下すると、英金融当局の影響力も低下することとなろう。今回の英国のEU離脱は、バーゼル規制等、国際金融規制の今後の動向にも影響を及ぼすと思われる。
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