○足元でイタリアの不良債権問題に注目が集まっている。そもそもこの問題は、14年10月にEU(欧州連合)が公表した銀行のストレステスト(健全性検査)の結果の中で、第三位のモンテ・パスキと中堅のバンカ・カリジェの資本不足が指摘された頃から燻ぶり始めていた。その後、ギリシャの経済危機やユーロ圏離脱騒動などを受けてこの問題に対する投資家の関心は薄らいだものの、事態は着実に悪化していた。
○不良債権問題がエスカレートした背景には、第一にイタリア景気の悪化がある。イタリアの実質経済成長率は12年から3年間マイナスが続いた。こうした景気悪化を受けて融資先の資金繰りが悪化したことが、多額の不良債権が生じる直接的な要因になった。もっとも景気の悪化だけでは、イタリアの不良債権問題が深刻化した理由を説明することはできない。より構造的な問題として、特有の所有形態に基づく銀行のガバナンスの弱さという論点がある。
○イタリアの不良債権問題は極めて深刻であり、銀行単位での処理には限界がある。バッドバンクの資金規模を拡充し、銀行からとりあえず不良債権を切り離す必要がある。銀行のガバナンスの改善も当然必要であるが、それは中長期的な課題と言えよう。こうした中で警戒されることは、不良債権処理を巡ってEUからイタリア政府への干渉が強まることで、イタリア国内における政治不安が強まってしまう危険性である。
○さらに警戒されることは、イタリアの不良債権問題が本格的な銀行不安に転じて、欧州の金融システム不安につながるリスクである。ドイツ銀行など経営不安が囁かれている銀行を中心に資金繰りが悪化し、金融不安の波がユーロ圏に広がる可能性もある。ECB(欧州中央銀行)による金融緩和の限界が意識される中、公的資金注入など財政による金融安定化政策が弾力的に行われないならば、欧州の金融システムは危機的状態に陥るかもしれない。
○こうした最悪のシナリオを回避するためには、イタリア政府が不良債権処理や公的資金注入をより弾力的に行えるよう、EUが歩み寄る必要があるだろう。ユーロ圏第3位の大国であるイタリアで銀行不安が生じている事実を勘案し、EUには原理原則にとらわれない柔軟な対応が求められる。
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