○北海道よりやや小さい国土に2100万人の人口を有するインド洋の島国スリランカでは、少数派タミール人武装勢力LTTEと政府軍との間で26年も内戦が続いていたが、2009年に政府軍がLTTEを軍事制圧し内戦は漸く終結した。
○スリランカの内戦終結の立役者であるラージャパクサ前大統領は、中国の援助によって港湾や空港といったインフラ建設を進めるなど、中国との関係を深めたが、2015年1月の大統領選挙で、野党候補のシリセーナ氏に敗れた。シリセーナ新大統領は、過度の中国依存を見直し、日本・インド・中国などの国々とバランスの取れた関係構築を目指している。
○2009年の内戦終結に伴う国内情勢安定化を背景に、個人消費や戦後復興のための投資が拡大し、スリランカの経済成長率は2010~2011年に8%前後へと大きく加速した。また、治安情勢好転により、8つの世界遺産を有し観光資源の豊富なスリランカを訪れる外国人観光客が急増しており、これを受けてのホテル建設ブームも、景気押し上げ要因になった。2009年5月の内戦終結直後から、スリランカの株価は急ピッチで上がり始め、2011年4月までの2年間で4.5倍に上昇し、世界の株式市場でも有数の上昇率となり、世界中の投資家から注目を浴びた。
○スリランカ経済の大きな弱点のひとつは、財政面の脆弱さである。財政赤字・公的債務残高の対GDP比率などを見ると、スリランカは、アジア諸国の中でもかなり高く、財政状態の悪さが目立つ。これは、スリランカの経済運営が社会主義的な色彩が濃く、国有企業を経済活動の中心に据えるなど、経済への国家の介入が大きかったため、財政支出過多となり財政赤字が膨らんだことが主因と言える。
○スリランカ経済のもうひとつの大きな弱点は、対外部門の脆弱さである。スリランカは、今まで、福祉や分配を重視する社会主義的な経済運営を続けてきており、東アジア諸国のような外資導入・輸出拡大による経済高成長を指向したことがない。このため、スリランカは、輸出品の付加価値が低く、貿易収支は赤字続きで、経常赤字が慢性化している。一方、スリランカの外貨準備は、内戦終結後の資本流入拡大などによって一時的に増加したものの、足元の水準は輸入3カ月分を下回ると見られ、要注意である。こうした対外部門の脆弱さを背景に、通貨スリランカ・ルピーの為替相場は、長期的な下落トレンドを辿っている。
○内戦後のスリランカには、外国からの直接投資が流入し、特に、通信などのインフラ整備関連や、ホテル・オフィス・店舗・住宅などの投資が拡大した。スリランカに進出している日本企業は、中小企業が主体で、ニッチ分野でのスリランカの強みに着目した企業や、スリランカの地理的優位性に着目しアジア以西への事業展開の拠点として進出した企業などが目立つ。
○スリランカの投資先としての強みは、まず、海運をはじめとする物流に便利なロケーションであることが挙げられる。また、教育水準が高いので、ITを利用した業務アウトソーシング先としての利用も有効であると考えられる。
○スリランカ経済の今後の主要な課題は、サステイナブルな経済成長を阻害する恐れがある財政赤字・経常赤字の解消に取り組むことである。経済活動への国の介入を減らし、外資導入による輸出振興を図るといった構造改革を進めることが求められよう。
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