○目下の欧州では、有権者の間で欧州連合(EU)のあり方に対する懐疑的な見方、いわゆる「欧州懐疑主義」の波が広がっている。有権者の間で欧州懐疑主義が広がる背景の1つに、EUが推し進めてきた緊縮政策への反発がある。加えて、15年頃から深刻化したシリアからを中心とする中東からの移民・難民問題が、欧州懐疑主義を一段と勢い付けさせている。
○有権者の間で渦巻く反緊縮・反難民の流れを巧みに汲み取ったのが、極右を中心とする民族主義政党である。民族主義政党が台頭することは、裏を返せば、これまで政権を担ってきた中道政党が退潮することと同義である。これまでのEU統合の流れは、二大政党制による中道政治(ドイツならSPDとCDU)の下で推し進められてきた。有権者のEUに対する不満が民族主義政党の台頭という形で顕在化してきたことは、ある意味で当然の動きと言える。
○警戒されることは、こうした動きが移民・難民対策のみならず、EU統合の動きそのものの停滞あるいは逆行にまで広がっていくことである。その中でも、当面最も優先して注視すべき事案は緊縮財政の動向だろう。民族主義政党の伸長で大衆迎合的な色彩が濃くなれば、財政規律は緩まざるを得ないと考えられる。そうした動きを嫌気した機関投資家が国債を投げ売りする、あるいは格付け会社による格下げを受けて欧州中央銀行(ECB)によるオペの対象から外れる国が出てくるようなことになれば、現在小康状態が続いている信用不安が再燃するリスクが高まる。
○かつての信用不安の局面(10~12年)に比べると、欧州安定メカニズム(ESM)による発行市場での、ECBによる流通市場での国債買い支え制度が整備されるなど、信用不安対策は進んでいる。したがって、ギリシャなど一部の例外を除けば、長期金利が10%を目指すような展開になるとは考えにくい。他方で当時と異なり、金融市場の担い手である金融機関、特に銀行の経営不安が深刻化しているという新たな問題がある。金融市場全体の脆弱性はかつての信用不安の局面よりも高まっているとも評価されよう。
○信用不安を和らげるセーフティネットは整備されたが、一方で金融当局であるECBの緩和余地は大きく狭まっている。またEUによる強い制約の下で、各国の財政出動も厳しく制限されている。政策余地が限られる中で、大手行の経営不安が深刻化したり、場合によっては経営破綻に陥ったりするなどして金融市場にシステミックなショックが生じた場合、それを和らげることができるのか定かでは無くなっているのが現状である。こうした中で問われてくるのは、やはり財政支出の弾力化という論点である。EUに求められていることは、危機対応をより迅速に行う裁量性を見直すことにあると言えるだろう。
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