○南アフリカ共和国(以下、南アフリカ)は、BRICSの一角を占め、アフリカで唯一G20会合に参加している有力な新興国である。最近の南アフリカの経済成長率は、低空飛行が続いている。しかし、ブラジルやロシアなど、マイナス成長に陥っている国々と比べれば、南アフリカ経済は底堅い。
○南アフリカの最近の景気が振るわない主な原因は、2000年代半ばに好調であった個人消費が勢いを失っていることである。その大きな原因は、2014年以降の中銀による利上げである。特に、2016年は、主食であるトウモロコシが旱魃で不作だったため値上がりした影響で、インフレ率が大きく上昇した。これを受け、南アフリカ中銀は、政策金利を一段と引き上げたため、景気がさらに押し下げられた。
○南アフリカ通貨ランドは、2011年頃から下落傾向が続いている。南アフリカ中銀は、基本的に為替市場に介入しないため、ランドの為替相場のボラティリティーは大きい。特に、2015年末には、ズマ大統領が健全財政論者の蔵相を解任したことで市場の信認が低下し、一時、急激なランド安が進んだ。
○個人消費は、家計債務残高が高水準で消費者心理も悪化しているため、低迷傾向が続いている。ただ、南アフリカは、人口の8割を占める黒人の失業率が著しく高いため、今後、黒人の教育や職業訓練を充実させて雇用・所得を向上させれば、それによって黒人の個人消費がかなり押し上げられる余地がある。
○投資も、企業マインド悪化が続いているため、足元では停滞傾向である。南アフリカの投資率は、新興国の平均よりも低い。ただ、既にインフラがある程度充実し工業化も進んでいる南アフリカでは、投資需要が他の発展途上国ほど大きくはないため、投資率が低いこと自体は必ずしも懸念要因ではない。
○南アフリカの財政収支は、リーマンショック直後から赤字が続いているが、財政赤字が拡大して手に負えなくなるようなリスクは低い。南アフリカの経済政策は、中銀と財務省を中心にテクノクラートの影響力が強いため、社会主義的傾向を有する現政権下にあってもポピュリズムや放漫財政に流れないのが特徴的であり、これが、南アフリカのマクロ経済面における大きな強みのひとつになっている。
○南アフリカの経常収支は赤字が続いており、 主要新興国の中ではトルコと並んで経常赤字対GDP比率が高い。ただ、南アフリカは、政府の経済運営への投資家の信認度が高いことなどからネット資本流入の黒字を維持できており、外貨準備が積み上がっている。このため、経常赤字が続いても、それが南アフリカのマクロ経済の安定を損なうほどの問題になるとまでは考えにくい。
○南アフリカの最大の輸出品目であるプラチナは、2012年以降、鉱山ストライキやプラチナ価格下落などの影響で、輸出額が減少し不振が続いている。南アフリカの最大の輸出相手国は中国であるが、中国向けの最大輸出品目である鉄鉱石の価格急落を受け、対中輸出は2014年以降大きく減少している。
○世界の中でもラスト・フロンティアと言われるサブサハラ・アフリカ地域は、総人口が2030年代に中国やインドを抜くと見られ、長期的に見て、非常に有望な市場である。南アフリカは、サブサハラ・アフリカ地域へビジネス展開するためのゲートウェイであり、今後、その戦略的重要性に対する注目度が高まると予想される。
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