インドネシア経済の現状と今後の展望~堅調な経済成長を続ける世界第四位の人口大国~

2017/06/13 堀江 正人
調査レポート
海外マクロ経済

○世界の主要な新興国のなかでインドネシアの経済の堅調さが際立っている。主要新興国の中において、2000年以降、経済成長率が一度もマイナスになっていないのはインドネシアだけである。インドネシアの経済成長率の2010年以降の動きをみると、2011~2012年は、主力輸出品目である一次産品の価格が高水準だったことを追い風に、6%前後と高かったが、2014年以降は、コモディティー価格下落の影響もあり、経済成長率は5%前後へと、やや鈍化した。

○インドネシアの経済成長は内需主導型であり、特に、個人消費が堅調で安定感がある。個人消費は、人口増加や最低賃金の大幅上昇などを追い風に、年々拡大しており、これが、インドネシア経済の成長のエンジンとなっている。個人消費の牽引役であったオートバイの販売台数は、ここ数年減少傾向にある。それでも実質個人消費がプラス成長を続けているのは、日用品や通信関連などへの消費が増えているからであり、これは、所得水準向上に伴う消費内容の多様化を反映したものと考えられている。一方、投資も底堅く推移しており、資源部門の投資についてはコモディティー価格下落の影響でここ数年鈍化していたが、ジョコ・ウィドド政権によるインフラ投資促進に後押しされて、投資全体の動きとしては、拡大基調が維持されている。

○インドネシア経済が堅調を維持してきた理由の一つに、為替相場の安定があげられる。2000年代に入って国内政治が安定化したことを受けて、通貨ルピアへの信認が回復し、為替相場が安定、それによって物価と金利も低位安定を維持できたことが、内需の安定的な拡大を支えた。米国金融緩和終焉観測にともなう資金流出で、2013年以降、ルピアの為替相場は下落したが、その後、コモディティー価格の底打ちやジョコ・ウィドド政権による景気刺激策発表などを受けて、下げ止まった。

○インドネシアの財政収支は赤字が慢性化しているが、赤字幅は一定の範囲に保たれているため、マクロ経済面でのリスクファクターにはなっていない。ただ、財政面の構造的問題として、歳入規模が小さいのが難点であり、潜在成長率を引き上げるためのインフラや教育訓練への投資を拡大するために、歳入増加を図る必要がある。

○経済収支も赤字続きだが、コモディティー価格の反発などで貿易黒字が拡大すると予想されるため、今後、経常赤字は縮小が見込まれる。また、経常収支をほぼオフセットできるだけの資本流入があるため、外貨準備が大きく減少する状況ではない。さらに、短期対外債務は外貨準備の4割程度にとどまり、対外債務返済リスクは限定的である。

○インドネシアは、アジア通貨危機直後に政治社会情勢混乱で治安が著しく悪化したため、日本企業から敬遠されてしまった。しかし、2000年代に政治社会情勢が安定化したことを受け、日本企業のインドネシアへの信認は回復している。東南アジア最大の2億5千万人もの巨大な人口を抱える大国インドネシアは、有望な個人消費市場として、日本企業が事業展開を加速させる動きも目立っている。

○一方、インドネシアは、輸出向け製造業の発展においてはタイやマレーシアの後塵を拝しており、工業国というより一次産品輸出国という位置づけにとどまっている。今後、諸外国とのFTA締結により輸出環境を改善し、インフラを整備し外資優遇策を拡充するなど、タイやマレーシアのような対外開放型の発展戦略を推進できるかどうかが、インドネシアの工業化による経済成長の成否を左右する重要なポイントであろう。

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