○17年5月7日、フランスで大統領選挙の決選投票が行われ、中道路線のマクロン元経済相が、急進路線のルペン元フランス国民戦線(FN)党首(当時、現党首)を破り、第25代大統領に就任した。マクロン新大統領は、フランス経済が苛まれている低成長と高失業の改善に取り組む必要に迫られている。これらの問題は経済の競争力の低さに由来するところが大きいが、それは強い労働規制による労働市場の効率性の低さによってもたらされている。金融危機後、緊縮財政が長期化する中で、強い労働規制が持つネガティブな側面が強く出るようになり、高失業の常態化につながっている。
○新大統領は労働規制の緩和を通じた競争力の向上に努めたいところであるが、そのハードルはやはり高いと言わざるを得ない。何よりもまず、フランスの有権者に根付いた強い権利意識の存在が、労働規制の緩和を進める上での障害になる。さらに金融危機以来長引く緊縮財政に対する国民の不満が、さらなる痛みを伴いかねない労働規制の緩和を阻むことになるだろう。加えて、フランス経済が低成長と高失業に苛まれているとはいえ、先に挙げたドイツやスペインが労働規制の緩和を断行した当時ほど状況が切迫していないことも、フランスで労働規制の緩和を行う上でのハードルになると考えられる。
○ルペンFN党首などの急進主義者は、欧州連合(EU)からの離脱による独自通貨の再導入(フレグジット戦略)を低迷脱却の処方箋として提示する。ただフレグジットによって財政・金融政策の裁量を取り戻し、景気拡張策を強化したとしても、労働市場の効率性は改善されない。そればかりか、この戦略はフランス経済が通貨危機と財政危機の併発を産むトリガーに成り得るという危うさを持っており、フランス経済が抱える低成長と高失業の脱却に効果がないばかりか、フランス経済をさらなる低迷に追い込む選択肢に他ならないと言えよう。
○フランス経済が抱える低成長と高失業の問題を改善する上で、労働規制の緩和を断行し経済の競争力改善を図ることは避けて通れない課題である。別の見方をすれば、誰が指導者に就こうとも、労働規制の緩和以外にフランス経済を活性化させる主だった術は残されていないわけである。それでも労働規制の緩和を回避し続けるのであるならば、低成長と高失業を受け入れる必要があることを、フランス国民は理解しなければならないだろう。マクロン新大統領以上に、フランスの有権者の覚悟が問われるところである。
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