カザフスタン経済の現状と今後の展望~シルクロードからオイルロードへ変貌する中央アジアの資源大国~

2017/09/28 堀江 正人
調査レポート
海外マクロ経済

○カザフスタンは、中央アジアで最大、世界でも第9位という広大な国土面積を有する大国である。カザフスタンは鉱物資源が豊富で、主力輸出品である原油の他、ウランやクロムなどの埋蔵量でも世界有数の規模を誇り、そうした資源の開発には日本企業も参加している。

○カザフスタンは、1991年の独立以来、ナザルバエフ大統領の長期政権が続いている。同大統領は、旧ソ連解体後にカザフスタンが独立して以降、社会主義経済から市場経済への移行を進め、新首都アスタナの建設を推進するなど、強いリーダーシップを発揮してきた。直近の2015年の大統領選挙で、同大統領は、得票率97%台という驚異的な高い支持を得て当選しており、政治基盤は極めて強固である。こうした安定した政治情勢がカザフスタンの経済発展を支える土台になっていると言える。

○カザフスタンは、主力輸出品が原油であるため、原油価格の影響を受けやすい経済構造であり、経済の盛衰は原油価格で決まると言っても過言ではないほどである。カザフスタン政府は、原油依存の経済構造が今後も続くようだと、原油価格低迷が長期化した場合に経済発展が袋小路に入ってしまうリスクがあることを危惧している。カザフスタン政府は、現在、経済改革と成長加速によって、「2050年までに世界でトップ30の先進国に入る」ことを目指し、経済の近代化・国際競争力強化に取り組んでいるが、その中でも、非石油部門の強化・拡大を図ることを重要課題のひとつとして位置付けている。

○カザフスタンは、通貨テンゲを米ドルに対し硬直的な管理フロート制によってコントロールしていたが、原油価格下落やロシア通貨ルーブル下落の影響を受け、2015年8月に、為替相場を管理フロート制から変動相場制へ移行すると発表、その後の1年間で、テンゲの対米ドル為替相場は、4割も下落した。こうしたテンゲの為替相場急落の影響で、インフレ率が急上昇し、これによる実質所得大幅減少のため、個人消費が落ち込んでしまい、カザフスタンの景気は大きく失速した。

○カザフスタンの財政は近年赤字に陥っているが、財政破綻を懸念する見方は少ない。その理由は、カザフスタン政府が、国家石油基金という「巨大な貯金箱」を保有しているからである。この石油基金は、カザフスタン国内で石油採掘を行う外資企業等からのロイヤルティー収入の一部をプールしたものである。巨額の国家石油基金の存在が、カザフスタン経済に対する国際的信認の高さを支えていると言える。

○カザフスタンの最大の輸出品目は原油であり、次いで、精製銅、ウラン、天然ガス、合金鉄といった鉱物資源関連の品目が多い。近年急速に伸びてきた輸出品目がウランである。カザフスタンのウラン生産量は、2000年代半ばから急速に増加し、2009年以降は、世界一のウラン生産国の座を維持している。最大の輸出品目である原油の4割近くがイタリア向けに輸出され、精製銅の半分が中国向け、ウランも半分が中国向けに輸出されている。

○カザフスタンの外貨準備は潤沢であり、巨額の石油基金も保有している。これらが安全弁として機能するので、国際収支や財政の面で危機に陥る可能性は非常に低いと言える。一方、カザフスタン政府が目指す資源部門以外の経済多角化は、言うべくして簡単ではない。カザフスタンは、ロシアとの関係が緊密であるが、貿易投資面では中国への期待が大きい。カザフスタンは、中国の一帯一路戦略における要衝でもあり、今後、貿易や投資における中国の存在感が一層高まるものと見られる。

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