○ロシア経済は、2000年代半ばに高成長を遂げたが、2010年代に入ると鈍化が続き、2015年にはマイナス成長に転落した。ロシア経済を2015年に落ち込ませる引き金となったのは通貨ルーブルの急落であった。2014年に、米FRBによる金融緩和終焉観測の浮上、ウクライナ危機をめぐる欧米諸国による対ロシア経済制裁発動、主力輸出品である原油の国際価格下落、といったマイナス要因が重なり、ルーブル為替相場は急落した。2014年1月から2016年1月までの2年間で、ルーブルの為替相場は半分以下に下落した。
○2014年のルーブル急落は、輸入物価上昇を通じてインフレ率を大きく押し上げた。ロシアのインフレ率は、2013年には概ね6%台であったが、ルーブル下落が加速した2014年後半には急上昇し、2014年12月には10%を超え、2015年2月には16%台に達した。ロシア中銀は、2014年後半以降のルーブル下落によるインフレ率上昇に対処するため急速な利上げを実施し、これが、2015年の景気後退をもたらす大きな原因になった。2016年に入るとルーブルの相場が持ち直し、為替相場急落の影響が剥落して、インフレ率は2016年1月には10%を切り、さらに、農産物の豊作による食料品価格低下という追い風も受けて、足元では3%前後まで低下している。
○足元の景気回復は、ルーブル高による効果が大きいと見られる。2016年初頭から、原油価格持ち直しを受けてルーブル高に転じたことによる輸入物価上昇の鎮静化が消費者心理を好転させていると見られる。また、ルーブル高による資本財輸入コスト低下は、企業の設備投資意欲を高めていると見られる。
○ロシアの財政収支は、赤字続きだが、財政規律は失われていない。また、原油関連税収を積み建てた巨額の基金を保有しており、万が一の際にはこれを取り崩して対応することができる。さらに、ロシアは、公的債務残高の対GDP比率が世界最低クラスである。こうした財政面のマクロ・プルーデンスは、国際機関等からも高く評価されている。
○欧米による対ロシア経済制裁は、特定のロシア企業に対して中長期のファイナンスや新規油田開発用技術・機材の提供を禁止することがメインである。すなわち、この制裁は、ロシア企業を「ショック死」させるのが目的ではなく、ロシアの主要産業の中長期的な成長が脅かされることを示してロシア政府に圧力をかけることが目的である。
○ロシア経済の構造的な問題のひとつは、ロシアの国際経済での位置づけが単なるエネルギー供給国にすぎないため、経済動向が原油価格に支配されてしまうことである。もう一つは、主要な新興国に比べてロシアの投資率が低く、資本ストックの更新が進んでいないことである。
○ロシア経済の今後の成長のための大きな課題は、エネルギー以外の産業の発展である。ロシアの産業は、兵器産業に関しては世界有数の力を持つが、民生産業は発展途上国レベルにとどまる。民生産業が振るわない最大の理由は、旧ソ連の社会主義経済時代が長すぎた後遺症で市場経済への移行が十分に進んでおらず、国営企業が未だに大きな影響力を持っていることなどから、民間部門が潜在力を発揮できないためであると考えられる。この問題を短期間で解決するのは難しく、ロシア経済は、今後回復したとしても低成長が続く可能性が高い。
○ロシア市場は2000年代に急拡大し、日本企業の注目度が非常に高まったが、近年は経済不振により注目度が低下した。ただ、ロシアに進出した日本企業が撤退する動きは顕在化しておらず、中長期的には所得上昇によってロシア市場が拡大するという日本企業の期待感は失われていない。足元のロシア経済の回復を受けて、在ロシア日本企業各社は、再び、事業拡大への準備に入りつつある。
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