○メキシコは、近年、中南米主要国の中において、マクロ経済面では最も安定感があった。メキシコ経済を支える大きな原動力となってきたのが、対米輸出の拡大であった。しかし、2016年の米大統領選挙で反メキシコ的な発言を繰り返してきたトランプ氏が勝利し、メキシコの対米経済関係の先行きには不透明感が漂っている。
○メキシコでは、1994年のNAFTA(北米自由貿易協定)発効後、対米輸出が拡大し、これに後押しされて、1990年代後半の景気は好調に推移した。2001年のITバブル崩壊で対米輸出は一旦落ち込んだが、その後、再び輸出は回復、2008年のリーマンショックで対米輸出は激減したが、2010年以降、輸出は回復した。足元の景気は、輸出は低調に推移しているものの、堅調な個人消費に支えられて、底堅い動きを示している。
○メキシコの消費者心理は、トランプ・ショックやガソリン価格値上げなどの影響で一時的に悪化したが、その後改善しており、消費者心理が長期低迷に陥る可能性は低いと見られる。足元で個人消費の堅調さを支えるのは、雇用環境の良さと、主に米国に在住するメキシコ人からの本国送金である。
○ペニャ・ニエト現大統領は、一連の構造改革を進展させ、これに対する海外投資家や国際機関からの評価は高まった。しかし、同大統領の親族による汚職疑惑浮上や、国内治安悪化問題などから、同大統領への支持率は2014年以降低下した。次期大統領選挙は、2018年7月に実施予定であり、最近支持を伸ばしているのが、野党左派政治家のロペス・オブラドール氏である。同氏は、ペニャ・ニエト大統領の構造改革に逆行する保護主義や大きな政府を指向する姿勢を示しており、もし大統領に当選すれば、大幅な資本流出発生やペソ安進行の可能性がある。
○メキシコでは、2016年からインフレ圧力が高まり、これに対応するため、中銀は政策金利を急ピッチで引き上げてきた。ただし、インフレ率の上昇は、ガソリン価格上昇などの一過性の要因によるもので、2018年末までには3%近辺まで低下すると見込まれている。
○メキシコ通貨ペソは、2014年後半から、米FRBの利上げ、原油価格下落、トランプ・ショックなどの影響で下落を続けてきた。しかし、2017年2月に中銀が為替ヘッジスキームを発表したことなどから、為替相場は持ち直している。
○メキシコは、財政規律面でも中南米主要国の中では比較的良好である。メキシコの財政収支は赤字続きではあるが、赤字は縮小傾向にあり、ブラジルやアルゼンチンのように財政赤字が著しく拡大してしまうことはない。また、公的債務残高の対GDP比率を見ても、メキシコは、ブラジルに比べてかなり低い。
○メキシコは、近年、恒常的な経常赤字に陥っているが、経常赤字を資本流入でオフセットしているため、国際収支面のリスクは限定的である。メキシコへの資本流入が多い理由は、主に、外国投資家によるメキシコ国債購入拡大であり、その背景には、メキシコ・ペソの為替市場規模が大きく、ペソ建て資産の売買取引がスムーズであるという事情がある。
○メキシコの対米輸出比率は8割にも達し、近年、特に自動車部品などの対米輸出が拡大している。一方、エレクトロニクス関連分野の対米輸出では、メキシコは中国との競争に敗れつつある。
○トランプ大統領就任後、NAFTAの再交渉が始まったが、トランプ大統領は、再交渉がうまくいかなければNAFTAから脱退する可能性も匂わせている。しかし、もし米国がNAFTAから離脱すれば、米国企業も大きな打撃を受ける可能性があり、米国とメキシコが共倒れになりかねない。
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