ベトナム経済の現状と今後の展望~ タイを抜いてインドシナ半島最大の輸出国に成長したベトナム ~

2018/03/16 堀江 正人
調査レポート
海外マクロ経済

○ベトナムは、共産党一党独裁を維持しつつ市場経済化を進めるという「ミニ中国型」の経済運営を続けてきた。経済開発戦略は中国と同じであり、ODAを利用しつつインフラを整備して外資を導入し、外資企業による輸出主導で工業化・経済成長を遂げてきた。また、金融面でも、中国と同様に短期資本移動や為替取引を厳しく制限し、それゆえに、リーマンショックなど国際金融市場の激変による打撃を免れてきた。

○近年のベトナムの経済成長率は、2011年にバブル発生を懸念した当局による引き締めが実施された影響で2012年に大きく鈍化したが、その後は盛り返し、エレクトロニクス輸出などを牽引役として景気は拡大、2017年の成長率は6.8%と、10年ぶりの高い伸び率となった。

○ベトナムでは、WTO加盟(2007年)直後の投資ブームで景気が過熱したため、2008年秋にはインフレ率が30%に近づくほどまで上昇した。その後、リーマンショックでインフレ率は一旦低下したものの、金融緩和によって融資が拡大したことでインフレが2011年に再加速し、当局は引き締めを強化した。引き締めによりインフレ率は低下し、2014年以降、インフレ率は概ね5%以下で推移している。

○ベトナム通貨ドンの為替相場は、長期的な下落が続いてきたが、2012年以降経常収支が黒字化したことを受け、足元では、ドン下落の動きがペースダウンしている。このため、人件費上昇をドン安で吸収できなくなった輸出企業の採算は悪化したが、他方で、ドン下落ペースが鈍ったことで輸入インフレ圧力が低減するというメリットもあった。

○ベトナムは、財政収支が慢性的な赤字であることに加え、インフラ整備のため巨額のODA融資を受けてきたこともあって、公的債務残高が増加しており、これが、将来的に財政運営の健全性を失わせるのではないかとの懸念が浮上した。政府は、公的債務残高をGDPの65%以下にするというシーリングを設けたが、2016年にはその上限に近づいたため、ODAによるインフラ建設工事の代金支払いが滞るというトラブルが発生した。

○ベトナムの輸出は、外資企業が携帯電話などの大規模生産拠点をベトナムに設立したことを背景に、エレクトロニクス関連を牽引役として急激に増加し、2016年には、ベトナムの輸出額がタイを抜いてインドシナ半島最大となった。

○輸出の急激な増加により、貿易収支は慢性的な赤字から黒字に転じ、恒常的に赤字だった経常収支も黒字に転換した。ただ、経常黒字化したとはいっても、外貨準備はまだ十分に積み上がっていない。ベトナムの外貨準備は、2017年末時点で財・サービス輸入の2.9カ月分相当と推定され、要注意ラインとされる同3カ月分よりも少ない。

○ベトナムへのFDI(外国からの直接投資)認可件数は、2010年代に急激に増え、2016年に過去最高を記録した。一方、FDI認可額を見ると、2010年代はずっと低位横ばい状態である。つまり、一件当たりの投資額が小規模化しているということであり、これは、中小企業のベトナム進出が増えていることを示すものと言える。

○日本企業のベトナムへの関心度は最近高まっており、国際協力銀行による海外直接投資アンケート(2017年度)の有望国ランキングにおいて、ベトナムは、中国、インドに次ぐ第3位になった。投資先としてのベトナムの最大の魅力は、一言でいえば、「人件費が中国やタイより安く、しかも労働者の質は中国並みに高い」という点にある。投資環境の弱点とされた脆弱なインフラも、多額のODAによって近年かなり整備され改善が目立っている。投資先としてのベトナムは、まさに「今が買い時」であると言えよう。ただし、ベトナムの人件費は近年上昇しており、今後は、低廉な人件費ではなく、生産効率や付加価値の高さで勝負するべく、教育や職業訓練の高度化などが必要であろう。

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