○最近のカンボジア経済は、アジアでも屈指の高成長ぶりを示している。景気拡大の主な牽引役は、縫製品輸出、建設・不動産部門、観光業、小売部門などであり、それらは、海外からの直接投資流入に支えられている。また、原油価格が低水準で推移してきたことも景気拡大への追い風となった。
○カンボジアは、ASEANで最も貧しい国のはずなのに、首都プノンペンでは高額消費ブームが起こっている。プノンペン市内では、近年、高級コンドミニアムの建設ラッシュで地価が急上昇しており、こうした地価高騰を背景に、不動産開発用地の売却で巨額の資金を手にした「にわか土地成金」が高額消費の担い手になっていると見られる。
○カンボジアでは、通貨「リエル」が発行されているが、実際には、米ドルが広汎に使用され、経済が事実上「ドル化」しており、金融・商業活動における決済の大部分がドル払いである。ドル化の大きなメリットは、物価の安定である。また、ドル化には、外国からの投資流入促進効果もある。すなわち、外国投資家から見て、米ドルが使えるカンボジアは、為替リスクのない投資先となるからである。ドル化は、カンボジア経済好調の原動力である外国からの直接投資流入を支えているという意味で、経済成長促進要因になっていると言える。
○ドル化しているゆえ、カンボジアには「通貨主権」や「金融の独立」がないに等しい。ただ、そうかといって、米ドル流通を禁止しリエル使用を強制すれば、物価が高騰し投資流入にブレーキがかかり、経済が混乱に陥る。このため、カンボジアは、当面、ドル化を続けるしかなく、外資系企業や国際機関も、経済の安定維持の観点から、ドル化の継続を支持している。
○カンボジアの輸出は近年急速に拡大してきたが、その牽引役が縫製品輸出であった。これは、日米欧の大手アパレル企業が、人件費の安いカンボジアへの生産委託を増やしたことが背景となっている。また、カンボジアを含む後発開発途上国からの輸入に対して、先進国側が輸入関税を免除していることも、カンボジアの縫製品輸出拡大を後押しした。
○カンボジアには、2010年頃から、低廉な人件費に着目した外資企業が中国やタイから生産拠点の一部をシフトさせるという、いわゆる「チャイナ・プラス・ワン」もしくは「タイ・プラス・ワン」という動きが目立つようになり、日本企業のカンボジア進出も、労働集約型業種を中心に増加した。
○低廉だったカンボジアの人件費も、近年、急速に上昇している。最低賃金は、2012年には月間60㌦/月という破格の安さであったが、その後、毎年上昇して、2018年には170㌦/月となった。これは、隣国ベトナムの地方部における最低賃金よりも高い。最低賃金の急上昇は、国際競争力を低下させ外資企業のカンボジア進出にもマイナス影響が出るとして、外資企業や国際機関の間では、懸念が広がった。
○投資先としてのカンボジアは、裾野産業の欠如、教育水準の低さ、電力価格の高さ、といった問題はあるものの、若年層が多く人口動態的に見て将来有望であることが大きな魅力である。
○最近、カンボジアでは、中国の存在感が高まっている。中国企業による縫製品製造・輸出、中国マネーによる不動産開発やインフラ建設、さらには、中国人観光客の増加による観光産業の活況など、経済面での中国の影響力は絶大で、このままだとカンボジアが「中国化する」との声すらある。中国マネーへの依存度が高いため、中国の景気が大きく悪化した場合には、カンボジア経済も打撃を受ける可能性が高い。
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