○世界経済の牽引役として2000年代に脚光を浴びた新興国経済は、近年、やや勢いが鈍化したが、その存在感は依然として大きい。新興国の経済成長率は先進国を大きく上回っており、また、世界人口の8割強を新興国が占めている。ただ、新興国全体としての経済成長率が高いといっても、全ての新興国の経済が好調とは限らず、かなり大きな地域差が存在する。
○新興国の近年の経済成長率を主な地域別に見ると、最も高いのは、アジア地域であり、その堅調ぶりは、他地域に比べて際立っている。アジア新興国経済を牽引するのは、中国経済である。ただ、中国経済は、堅調ではあるが、2000年代のような2ケタ台の高成長率に復帰する可能性は低いと考えられる。その理由は、かつてのように、過小評価された為替相場のもとで輸出を伸ばしたり、闇雲に資金調達してがむしゃらに投資するといった手法で経済成長率を押し上げることが困難になっているからである。
○CIS諸国の経済は、2014~2015年の悪化から立ち直っているが、足元の経済成長率は、2000年代には遠く及ばず、今後についても、ロシアを中心に低い伸びが長期化しそうな情勢である。
○中東北アフリカでは、域内最大の経済大国トルコが、為替相場急落で経済危機に陥りつつあり、産油国の雄サウジアラビアは2014年の原油価格暴落の後遺症で景気が低迷するなど、経済の先行きに不透明感が漂う。
○中南米の経済成長率は、2016年にマイナス転落したが、2017年からは、プラス成長に回復した。これは、南米の二大国ブラジル・アルゼンチンにおいて、2015~16年にかけて左翼政権が退陣し、経済運営の正常化を目指す中道右派政権が発足したことに影響されている。ただ、2018年7月にメキシコで左翼政権が誕生し、ブラジルとアルゼンチンでも、2018~19年の大統領選挙で左翼政権が復活する可能性があり、予断を許さない状況である。
○サブサハラ・アフリカは、資源価格動向に左右されやすい脆弱な経済構造である。サブサハラ・アフリカの経済成長率は、2016年をボトムに回復の兆しを見せている。これは、主として、ナイジェリアやアンゴラといった原油輸出国において、2016年以降の原油価格回復を受けて経済状態が持ち直していることを反映したものである。
○新興国経済に影響を与える要因として見逃せないのが、米国金利動向である。2013年頃から米国での金融緩和終焉観測が浮上すると、新興国から資金が流出し新興国通貨が下落、それに対応するための利上げが新興国景気を下押しするという展開になった。最近の新興国通貨の動きを見ると、アジア新興国通貨の下落率が限定的であるのに対し、非アジア新興国の通貨の下落率がかなり大きい。これは、アジア新興国のファンダメンタルズが、全般的に、非アジア新興国よりも良好であることが影響しているためと言えよう。
○コモディティー価格も、新興国経済に影響を与える重要な要因のひとつである。コモディティー価格の上昇は、資源輸入国が多いアジア新興国にはマイナスだが、資源輸出国が多い非アジア新興国にはプラスとなろう。
○非アジア新興国に関しては、米国の対イラン制裁再開、欧米諸国の対ロシア制裁、メキシコの左翼政権成立など、政治面での不安要素を抱える国が多い。このため、2019年の新興国経済は、全体としては拡大基調を保ちつつも、地域別には、アジアが堅調、非アジアが視界不良でダウンサイドリスクが大といった状況が予想される。
○非アジア新興国経済の先行きが不透明という状況の中で、当面は、経済が堅調なアジア新興国の内需を狙うことが日本企業の新興国戦略の主眼になりそうだ。
テーマ・タグから見つける
テーマを選択いただくと、該当するタグが表示され、レポート・コラムを絞り込むことができます。