加速したトルコの「ドル化」~さらなる通貨危機を見越し今後も着実に進む恐れ~

2018/10/29 土田 陽介
調査レポート
海外マクロ経済

○トルコ経済は通貨危機に陥っているが、その中でドル化が加速している。ドル化とは、日々の経済活動において国内通貨のみならず米ドルやユーロ、円など信用力が高い外国通貨が使われることを意味する。

○ドル化には金融仲介の改善や為替リスクの軽減といったメリットがある。反面で、ドルが利用されることで経済活動が米金利にも依存するため、国内金利を通じた金融政策が効かなくなるという看過出来ないデメリットがある。人口8千万人を擁する地域大国であるトルコの場合、ドル化のメリットよりもデメリットが勝っている。

○またトルコでは国内の貯蓄率の低さが経済発展の制約になっているが、これもドル化と裏腹の関係にある。リラに対する信認が低いため、トルコの人々は国内通貨建ての貯蓄よりも米ドルの購入や現物資産(金・不動産)の購入を優先する。その結果、国内貯蓄が増えずに一段の経済発展が阻まれている。

○通貨危機に伴いドル化が加速したことで、トルコの金融政策は効力が着実に弱まっている。通貨の信任が再び問われた際に、高金利政策を強化してもリラの下落を止めることは容易でない。エルドアン政権による経済運営の正常化が見込まれない中では、ドル化は容易に改善しないばかりか、さらなる通貨危機を見越して今後も着実に進んでいく恐れが大きい。

○日本では人々の円に対する信任が強いため、ドル化は極めて限定的である。ただ仮に日本で財政破綻が意識されて円が暴落するような事態が生じた場合、日本でもドル化が加速するだろう。そうなれば金融政策の効果が弱まり、巨額の公的債務残高を支える低金利政策を維持することも容易でなくなる。トルコの経験を他山の石として、日本でも「通貨の信任」という観点からマクロ経済政策の運営を見直す必要があるだろう。

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