エジプト経済の現状と今後の展望 ~経済の復調が注目される中東北アフリカの大国エジプト~

2019/01/08 堀江 正人
調査レポート
海外マクロ経済

○エジプトは、2011年の「アラブの春」による政治情勢混乱で観光客が激減し生産活動も停滞したため、2012~2014年にかけて経済成長率が2~3%前後と低迷した。しかし、2014年には、大統領選挙でエルシーシ前国防相が当選、2016年にはエルシーシ大統領支持派が多数を占める議会が発足し、政治情勢は安定化した。

 

○エジプト政府は、IMFの勧告を受け、2016年に為替相場の大幅切り下げや補助金削減などの改革を断行、この改革で経済が健全化するとの期待感から、外国からの資本流入が拡大し、こうした状況を背景に、エジプト経済は復調を遂げた。IMFの予測によれば、エジプトの経済成長率は2020年代初頭には6%台と、他の域内主要国を大きく上回るものと見られている。

 

○エジプトは、政治・外交・宗教の面で中東北アフリカ地域を代表する大国でありながら、一人当たりGDPは、同地域主要国の中で最低水準に甘んじている。エジプトの経済発展が遅れた最も大きな原因は、経済発展戦略の不在であった。エジプトは、観光収入、スエズ運河通航料収入、在外労働者からの送金、という3大外貨収入源に恵まれている。今までのエジプト政府は、そうした「棚ボタ」の外貨収入を使って必要な物資を輸入すればなんとかなるという発想から脱却できず、国内産業発展を図り外貨を稼ごうという意識に乏しかった。これが影響して、エジプトにおける経済・産業の発展が進まなかったと言えよう。

 

○エジプトには、原油関連のほかにめぼしい輸出品目がなかったが、EUとの連合協定による関税撤廃を契機に、工業製品等の輸出が増えてきた。例えば、日系企業が現地生産するワイヤーハーネスのEU域内向け輸出が最近増加している。エジプトの主要貿易相手国は、EUや湾岸諸国などの近隣地域が中心である。

 

○エジプトへの主要投資国も、EUや湾岸諸国など近隣地域の国々である。投資先としてのエジプトの魅力は、まず、巨大な人口と人口増加率の高さを背景とする、市場としてのポテンシャルの大きさである。また、エジプトは、人件費が東欧やトルコなどと比較して安く、EU向け生産拠点としての魅力もある。ただ、エジプトの労働力の質に関しては、問題視する外資系企業も多く、教育の普及などによる人材レベルの底上げが必要である。

 

○エジプトに進出している日系企業は約60社であり、インフラ関連や国内市場狙いの進出がメインで、輸出向け製造業は少ない。今後、エジプトで有望なビジネスとして、資源開発や火力・風力発電などを含むインフラ事業が挙げられており、既にそうした分野に進出している日系企業もある。他方、国内消費市場向けビジネスについては、確かに人口規模や人口増加率の高さという点に魅力はあるものの、所得水準がまだかなり低いことから、高付加価値が売り物の日本製品の市場としては時期尚早ではないかとの見方もある。

 

○今後のエジプトの経済発展にとって重要なキーワードは産業育成による雇用創出である。それには、まず、輸出向け労働集約型製造業関連の外資企業進出を促し、雇用増加を図ることが重要であろう。もしも、産業育成がうまくいかない場合には、雇用が増えないまま人口が増加し、大量の若年失業者が発生、社会の不安定化が進む、という憂慮すべき事態に陥ることも考えられる。

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