○アフリカ大陸諸国は、世界の新興国の中でも最後に残されたフロンティアである。今年8月の横浜でのTICAD(アフリカ開発会議)開催を前に、日本でもアフリカへの関心が高まっているが、そのアフリカにおいて、二番目に日系企業拠点数の多い国がモロッコである。
○モロッコは、農業国という性格が強く、経済成長率が天候による影響を受けやすい。また、農業以外にめぼしい産業がないため、雇用創出が不十分で失業率が高い。こうした問題を克服するため、モロッコは、外資企業誘致を通じて、農業国から工業国への脱皮を図っている。
○現在のモロッコは、就労人口などから見て、基本的には農業国と言えるが、他方で、輸出構造を見ると、工業化が進展しつつある状況がうかがえる。モロッコの輸出品目は、2000年代には、燐鉱石関連や、衣料品、海産物など、一次産品や軽工業品が上位を占めたが、2010年代に入ると、乗用車や自動車用ワイヤーハーネスなど自動車関連の工業製品が上位を占めるようになった。
○自動車関連の輸出が増加した背景には、ルノーの自動車工場や住友電装のワイヤーハーネス工場などのモロッコ進出があった。モロッコは、ジブラルタル海峡を挟んで、EU(スペイン)とは指呼の間にあり、また、FTAによってEU向けに無関税で輸出できる。さらに、人件費についても、モロッコは、西欧諸国はもとより、東欧諸国やトルコなどと比べても大幅に安い。こうしたメリットに注目し、EU域内向け輸出用生産拠点として、モロッコに進出する外資企業が増加している。
○モロッコへの外資企業進出増加を後押ししたのは、モロッコ政府による投資環境整備であった。モロッコ政府は、地中海地域でも有数の規模を誇るタンジェMED港を建設、2018年11月には仏TGV方式による高速鉄道を開通させるなど、インフラ整備を進めてきた。また、モロッコ政府は、税制面等で優遇を受けられるフリーゾーンを整備し、そこへ多くの外資企業が進出した。
○ 北アフリカ地域の中でも、モロッコは、安心できる手頃な投資先と言える。モロッコの隣国アルジェリアは、資源大国だが、長期政権を続ける大統領の健康不安や、外貨不足による輸入制限、外資企業に対する出資比率規制といった問題があり、ビジネス環境が良いとは言えない。また、チュニジアとリビアは、治安情勢が不安定であり、外資企業が安心して進出できる状況ではない。さらに、エジプトも、アラブ諸国の中では最大の人口を有する大国だが、確固とした外資誘致策や産業育成策がないため外資が進出しにくい状況である。これに対して、モロッコは、治安が安定し、インフラや投資優遇制度が整いつつあり、政府の産業育成策や外資誘致政策が明確であるため、外資企業が進出しやすい国であると言える。
○ モロッコ政府は、輸出向け製造業関連の外資企業を誘致し、その集積をバネにして、工業国への転換を図ろうとしており、その姿は、1980年代に、東南アジアのマレーシアが輸出向け製造業を誘致して「天然ゴム王国」から「電子部品王国」へと変貌を遂げたことを彷彿とさせる。中長期的には、モロッコが「北アフリカのマレーシア」となって有力な新興工業国のひとつに加わる可能性も見えつつあると言えそうだ。・・・・(続きは全文紹介をご覧ください)
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