○重債務危機に喘いだ2010年代前半とは対照的に、2010年代後半のアイルランド経済は高成長軌道に返り咲いた。特に2015年には、米国の医薬品メーカーの本社移転によりR&D(研究開発)資産が急増した影響を受けて、実質GDPが26.3%増という異例の高成長を記録した。
○アイルランドはかつて「GIIPS」の1つに数えられた重債務国である。巨額の公的債務の返済が長年の課題であったが、2015年のGDP急増を受けて公的債務残高の対GDP比率は大幅に低下することになった。ただGDPの増加に比べると税収の伸びは少なく、財政指標の改善に関してはかなり割り引いて評価する必要がある。
○直接投資を経済成長のエンジンにしてきたアイルランドであるが、足元では①英国のEU離脱に伴う不透明感、②国際課税ルールの厳格化、③米トランプ政権による法人減税政策など、直接投資をめぐる環境が国際的に変化しており、直接投資が今後も安定して流入する展望は描き難くなっている。
○アイルランド政府は引き続き直接投資の受入を経済発展戦略の中核に据えているが、近年の世界的な環境変化を考慮すると、その経済発展戦略は曲がり角を迎えていると言わざるを得ない。新たな発展戦略が描けない限り、アイルランド経済もまた低成長時代を迎えるものと予想される。
○なお、確かに財政の持続可能性を評価する上で公的債務残高の対GDP比率は重要な指標であるが、この指標はGDP統計の内容次第でいくらでも変化してしまう。アイルランドの経験はレアケースとは言え、財政の持続可能性を評価する上で公的債務残高の対GDP比率は一つの参考指標に過ぎず、本来はより複合的な視野からの検討する必要があることを我々に問いかけている。・・・(続きは全文紹介をご覧ください。)
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