○チェコの経済成長率は、2015年以降、EU全体の成長率を上回り、足元の景気は堅調である。好調な輸出に加え、EU基金を利用した公共投資が拡大、個人消費も底堅く推移し、景気を下支えしている。
○チェコの失業率は、2018年時点で2%台と、EU域内国の中でも最低水準である。また、賃金上昇率もEU域内屈指の高い伸びである。こうした雇用環境の良さは、個人消費の堅調さを支えている反面、労働市場が逼迫していることを示している。チェコの人手不足は、東欧で最も深刻とされている。
○チェコの財政状態は、東欧主要国の中でも健全性が高い。財政収支は2016年から3年連続で黒字であり、一般政府部門債務残高対GDP比率も、ポーランドやハンガリーを下回る。財政状態の健全性は、チェコ経済への投資家の信認を高める要因となっている。
○2000年以降のインフレ率の動きを見ると、ほとんどの時期で3%以下であり、概ね安定的に推移してきたと言える。人件費上昇や企業の設備稼働率上昇といったサプライサイドの制約が顕在化する中でも、足元のインフレ率が2%前後という低い伸びで収まっているのは注目に値する。
○チェコ中銀は、景気テコ入れのため、2012年11月に、政策金利をEU域内最低となる0.05%にまで引き下げたが、景気が回復しないため、2013年11月から、通貨コルナの為替相場を27コルナ/ユーロよりも安く維持する為替介入を実施した。2017年に、インフレ率は2%台まで上昇し、中銀は、2017年4月に為替介入を停止、同年8月以降は、金融政策正常化を視野に利上げを実施した。
○ユーロ導入は、チェコ独自の金融政策を放棄することを意味するため、経済運営上の裁量保持という観点から、早期導入のインセンティブは低いと見られる。また、2011年に発生したギリシャ危機が、チェコ国民にユーロ導入はリスクであるという認識を高めてしまい、ユーロ早期導入を遠のかせた側面もある。
○チェコ経済は、輸出依存度が高く、輸出の牽引役は、自動車関連品目であり、最大の輸出先はドイツである。ドイツの自動車部品輸入相手国を見ると、チェコがトップであり、ドイツの自動車産業にとってチェコの自動車部品産業は非常に重要な存在であることが示されている。
○欧州の自動車産業におけるチェコの存在感は大きい。自動車生産台数を見ても、チェコはEU域内第5位であり、また、自動車部品生産額の国別ランキングにおいて、チェコは、EU域内でドイツに次ぐ第2位である。
○チェコは、第二次世界大戦前に世界屈指の先進工業国であったという歴史的背景から、ハイレベルの工業基盤を有する。また、チェコの教育水準の高さは、欧州でもトップクラスである。他方で、チェコの人件費は西欧に比べて格段に安く、チェコの1時間当たりの労働コストは、独仏の1/3にすぎない。西欧と同等以上の質の高い労働力を、格安のコストで雇えることが、対チェコ投資の大きな魅力である。
○チェコは、マクロ経済構造が健全であり、金融危機に陥る可能性は他の新興国に比べて低い。安定した経済を背景に、チェコは、当面、欧州自動車産業のバリューチェーンの中核的位置を占め、自動車関連輸出が経済を牽引する形が続くだろう。ただし、欧州で進展するEV(電気自動車)化の動きにチェコがどう対応するかが、中長期的な課題となろう。
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