米中貿易摩擦の構図 ~短期的な合意の可能性も対立は長期化~

2019/10/01 細尾 忠生
調査レポート
海外マクロ経済

○米中摩擦の背景には、中国が経済力で米国に迫りつつあり米国の警戒感を高めていること、米国人の対中感情が悪化していること、また、中国が外交・軍事面で高圧的な振る舞いを見せるようになったことから、米国の対中政策に修正が迫られていることの3つの要因がある。長期的な視点で考えると米中摩擦は必然的な側面が大きい。
○米中協議の具体的な枠組みは、6項目の協議事項(①技術移転の強要やサイバー空間での産業スパイ行為の禁止、②知的財産権保護、③農業分野の市場開放、④サービス分野の市場開放、⑤非関税障壁撤廃(中国製造2025や国有企業への補助金廃止)、⑥人民元)と、米国の対中貿易赤字是正のための短期的措置、合意事項の実行を担保するための措置の3つで構成される。
○中国は今夏にみせたような対米強硬姿勢を和らげ、一定の対米協調姿勢に回帰する可能性がある。米国も、株安、企業マインドの悪化など米中摩擦の影響が顕在化しており、来年の大統領選挙をにらみ、中国側の出方次第で妥協を図る誘因が増大している。
○もっとも、米中摩擦には必然的な側面が大きく、今後数十年にわたり継続していくとみられる。米国人の対中感情の悪化を背景に、トランプ大統領が、中国たたきという姿勢を重視すると、米国側に余程のメリットがない限り、合意には至らない可能性も残る。このケースでは、米中経済のデカップリング、ブロック経済圏化が促進され、一部品目では象徴的に100%関税が賦課されるケースも出てこよう。
○関税による影響はあるものの、米国経済は潜在成長率ペースでの成長を持続する。ただし、米国が12月に予定される対中追加関税第4弾(2回目)を実際に発動するなど、対立が一段とエスカレートすれば、米経済への影響も無視できなくなるおそれがあり注意が必要であろう。
○一方、中国経済は、複合不況と呼びうる状況に直面しており、追加関税の応酬が一段と激化し、成長率が5%台に低下するリスクを抱える。人民元安と資本流出のスパイラルが起きれば、中国発の金融不安を招くリスクがある。

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