〇近年、主要な新興国BRICsの経済が次々に失速する中、唯一、堅調さを維持してきたのがインド経済であった。しかし、足元でインド経済は鈍化を続けている。景気減速の主な原因は、金融機関の不良債権問題深刻化で融資が絞られたため、個人消費と投資が押し下げられたことである。
〇不良債権増加の主因は、インフラ建設を急ごうとする中央政府や州政府の圧力を受けて、公営銀行のインフラ事業への融資が膨らんだことにある。そうしたインフラ事業が頓挫し、融資を受けていた建設業者等が返済不能となる事態が頻発した。さらに、2018年には、ローカル格付AAAのノンバンクがデフォルトに陥り、これにショックを受けた金融市場でクレジットクランチが深刻化したことが、景気鈍化に拍車をかけた。
〇インド中銀は、2018年にインフレ圧力を抑えるため利上げを実施したが、2019年2月になると、インフレ圧力が抑制される一方で景気下振れリスクが高まっているとの判断から、政策金利を25bps引き下げ、その後、同年4月、6月、8月、10月と、連続して25bpsずつの利下げを実施した。ただ、不良債権問題の影響もあって、中銀の利下げが金融機関の融資金利低下につながりにくい状況になっており、利下げの効果が表れるには、不良債権処理の進展がカギになりそうである。
〇2014年の総選挙で政権を握ったモディ首相の率いるBJPは、2019年の総選挙でも圧勝した。景気が失速する中でもモディ首相が選挙で勝てたのは、カシミールでのテロ事件に際し、事件に関わったとされるパキスタン領内のテロリスト拠点を空爆したことで、国民の愛国心とBJPへの支持が高まったためと見られる。
〇インド経済の大きな弱点のひとつが財政である。財政面の弱さに起因するインフラ未整備は、供給サイドの脆弱さをもたらし、また、外資系製造業のインド進出阻害要因になった。さらに、慢性化している財政赤字は、インフレ圧力や経常赤字拡大圧力を高めるなど、健全なマクロ経済運営を妨げる要因にもなっている。
〇インドの貿易収支は恒常的に赤字であり、一方、サービス収支はITサービス輸出に支えられ黒字、また、第二次所得収支も在外インド人労働者の本国送金により黒字である。しかし、貿易赤字をサービス収支黒字と第二次所得収支黒字でオフセットできず、経常収支は赤字という構造になっている。ただ、経常収支赤字は資本流入超過でオフセットされており、経常赤字が外貨準備減少に結びつくような状況ではない。
〇インドは、今、日本企業が事業展開先として最も注目している国であると言えよう。日本の製造業は、インドが、巨大な人口を抱え市場としての今後の「伸びしろ」が大きいという点に注目している。ただ、インフラが脆弱であることなどから、日本の製造業は、インドを輸出向け生産拠点としては捉えていない。
〇インドは所得水準が低いため基本的には低価格商品しか売れず利幅が少ない。しかも、インフラが未整備で、税制が複雑であることなどが、コストを膨張させ利益を圧迫する。このため、インド市場は、外資企業がそう簡単には儲けられない構造になっている。ただ、時間をかけてインドの実情に合わせビジネスモデルを調整していけばやがて儲かるようになる。インド・ビジネスは「我慢比べ」なのである。日本企業は、長期戦の構えで粘り強くインドでの事業に取り組む必要がある。
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