○近年、中央銀行自らがデジタル通貨(CBDC、Central bank digital currency)の発行を検討する動きが、各国で活発化している。元々各国の中銀はCBDCに関する研究は進めていたが、急速に進展するきっかけとなったのは、2019年6月のフェイスブックによる暗号資産リブラ構想発表である。
○リブラ自身はさまざまな問題点・課題があり、各国から強い批判を受け、当面リブラ発行が実現する可能性は著しく低い。しかし、各国政府は、リブラ構想をきっかけに、将来のデジタル通貨の世界に向け、体制整備を急ぐ必要があることを痛感させたことは確かである。
○CBDCの仕組みはさまざまあり、分類の仕方もさまざまあるが、大きく分けると、直接型と間接型の2タイプに分けることができる。間接型の場合、これまでの紙幣からデジタル通貨に代わるとはいえ、現在の中央銀行と一般利用者の間に銀行が介在する仕組みと、基本的にそれほど変わりはない。一方、直接型の場合、決済情報を中銀が一元的に把握・管理可能となるメリットはあるが、中央銀行が直接一般利用者の口座を中央銀行が開設することになり、銀行を実質中抜きすることとなるため、金融システムへの影響が大きい。現時点では、間接型が中心となると思われる。
○主要国では、特に、中国やスウェーデンでは、CBDC発行が現実のものとして検討されている。なかでも注目されているのが、中国人民銀行によるデジタル人民元の発行である。既に基本設計や標準策定は終了し、2020年4月に深セン、蘇州、雄安、成都において実証実験をすることが発表された。また、従来CBDC導入に慎重であった米国も積極姿勢に転換している。
○中国のデジタル人民元発行を、国際通貨としての米ドル覇権への挑戦と捉える向きもあるが、それほど簡単ではない。国際通貨となるためには貿易・金融の強力なネットワークが必要であり、米ドルは米国全体の国力が支えているのである。また、国際通貨となるには、ある程度の資本流出を許容せねばならないが、中国は、暗号資産取引を禁止してまでも、資本流出の抑制に腐心している。当面のデジタル人民元発行の狙いは、デジタル化による資金トレースを可能にし、資本流出を抑制することであろうと思われる。
○CBDCには長所・短所はある。しかし、IT技術革新を止めることはできず、その進展は今後も進み、いずれデジタル通貨時代が到来すると思われる。中国のみならず各国はこうしたデジタル通貨時代に備えた体制の構築を早く進める必要があろう。・・・(続きは全文紹介をご覧ください。)
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