コロナ禍で問われるEUの拡大戦略 ~現EU執行部に求められるデリケートな対応

2020/09/18 土田 陽介
調査レポート
海外マクロ経済

○コロナショックを受けて欧州連合(EU)の拡大戦略に黄色信号が灯っている。EUは最短で2025年に、西バルカン諸国に属するセルビアとモンテネグロの加盟を予定している。しかしながらコロナ禍でのEUの初動対応の拙さが、セルビアとモンテネグロの態度を硬化させる事態につながった。

○また先行してEUに加盟したブルガリアとクロアチアが、順調に行けば2023年にもユーロを導入する運びとなった。しかしコロナショックで発言力を高めたオランダやオーストリアといった健全財政を重視する北部諸国が、ブルガリアとクロアチアのユーロ導入を拒絶するリスクが意識される。

○セルビアとモンテネグロのEU加盟が後ずれすれば、他の西バルカン諸国のEU加盟も遅れる。同様にブルガリアとクロアチアのユーロ導入が延期されれば、後続の諸国のユーロ導入に向けた展望も描けなくなる。文字通りの「ドミノ現象」で、EUの拡大戦略はとん挫することになる。安全保障上の懸念も払しょくされないどころか、ますます高まる事態が予想される。

○コロナショックで世界各国は内向き志向を強めたが、超国家組織であるEUもまたその例外ではなかった。その結果、EUは自らの拡大戦略で大きなミスを犯すことになった。また復興基金の設立を巡る内部対立も深刻であり、拡大の機運そのものが萎んでしまった印象は否めない。拡大戦略をどう推し進めていくか、コロナショックは現執行部に重い課題を突き付けている。

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