コロナ禍の円安は日本経済にプラスに働くか?~国内産業の収益力が低下し、消費者負担も増加

2021/08/19 藤田 隼平
調査レポート
国内マクロ経済
  • 2021年に入り、為替相場は円安方向の動きを強めている。円安は輸出企業の業績改善等を通じて国内経済にプラスに働く一方、グローバル化が進み、日本国内で輸入品の存在感が着実に高まっている中では、輸入コストの増加を通じて逆に国内経済にマイナスに作用する面もある。
  • 円安の「価格効果」(外貨建てで取引されている輸出入品の円建て価格が円安によって押し上げられる効果)に着目し、円安が国内産業の収益力に及ぼす影響を試算すると、円安は製造業の収益力を高める一方、非製造業の収益力を低下させ、国内産業全体では収益力を低下させる効果の方が大きいことが分かる。
  • さらに、「価格効果」の時系列での変化を試算すると、国内産業では輸入原材料へのシフトが進んでいることから、製造業では収益力の押し上げ効果が縮小し、非製造業では押し下げ効果が拡大している姿も確認できる。
  • 次に、円安の「価格効果」の影響として、輸入コストの増加が消費者物価に及ぼす影響を試算すると、円安による消費者物価の押し上げ幅は、国内産業の輸入原材料への依存度の高まりを受けて拡大傾向にあることが確認できる。
  • 総じてみれば、円安は短期的には国内産業の収益力を押し下げることから、足元で進む円安はコロナ禍で苦しむ非製造業を中心に企業業績をさらに悪化させる要因になるとともに、消費者物価の上昇を通じて消費者負担を増やし、個人消費が抑制されるリスクとなる。
  • ただし、円安には「価格効果」だけでなく、企業が輸出品の外貨建て価格を引き下げることで輸出数量が押し上げられる「数量効果」や、海外からの配当等の金融収入額の円建て評価額を押し上げる「金融効果」もあり、円安の「価格効果」による日本経済への悪影響を緩和させる可能性がある。

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