- 原油価格は、2020年4月に世界的な新型コロナウイルスの感染拡大を受けて大きく落ち込んだが、その後は世界景気の持ち直しや石油輸出国機構(OPEC)とロシア等の非OPEC産油国で構成するOPECプラスによる協調減産を受けて持ち直し、足元ではコロナ前の水準を上回って推移している。
- 原油の大半を輸入に頼る日本にとって、原油価格の上昇は直接的に企業の投入コストが増加することを意味する。このため、足元ではコスト増加を価格へ転嫁する動きが生じている。
- 原油価格の上昇が国内の物価動向に与える影響を、最新の総務省「平成27年(2015年)産業連関表」をもとに試算すると、2015年の経済構造を前提とした場合、仮に原油価格が10%上昇すると、企業の産出価格は+0.4%程度、消費者物価は+0.3%程度押し上げられるとの結果が得られる。
- 10月に入りOPECプラスが原油増産の見送りを決めたことで、原油価格は1バレル当たり80ドルを超える水準まで上昇しており、1バレル当たり100ドルの大台も視野に入ってきている。仮に原油価格が1バレル当たり100ドルにまで上昇した場合、企業の産出価格は2021年1~9月期対比で+2.5%程度、消費者物価は+1.7%程度上昇する計算となる。また、ドバイ原油が過去最高の1バレル当たり124.5ドルまで上昇するようなことがあれば、企業の産出価格は2021年1~9月期対比で+4.2%程度、消費者物価は+2.9%程度上昇する計算となる。
- 本稿の試算は原油価格の上昇によるコストの増加分が全て価格転嫁されると仮定する等いくつかの前提に基づく試算であることから、ある程度の幅を持って見る必要はあるが、それでも原油価格の上昇が続けば、他の商品市況の上昇とも相まって、企業の産出価格や消費者物価が相応に上昇することは避けられないと考えられる。コストの増加による物価の上昇は、企業の利益率や家計の実質的な購買力の押し下げを通じて、設備投資や個人消費を減少させる要因となることから、新型コロナウイルスの感染拡大の一服を受けた需要回復の動きに、水を差すことになりかねない。
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