持続的な賃上げには何が必要か?~高まる労働生産性向上の重要性~

2022/04/06 藤田 隼平
調査レポート
経済
産業
雇用
労働
国内マクロ経済
  • コロナ禍で停滞していた経済活動が正常化へ向けて動き出す中、2022年の春闘ではベースアップに前向きな回答が増えるなど、コロナ禍で止まっていた賃上げに復活の兆しが見られている。本稿では、そうした賃上げの動きを持続的なものとするために何が必要なのか、近年の賃金の持ち直しの背景を整理することを通じてそのヒントを探った。
  • 雇用者1人当たりの名目賃金は1997年をピークに減少傾向が続いたが、近年、持ち直している。雇用者1人当たりの労働時間は減少が続き賃金を押し下げているものの、2013年以降、時間当たり賃金(時給)がそれを上回って上昇し、賃金を押し上げている。
  • 柔軟な働き方や長時間労働の是正が叫ばれる中、労働時間の増加に伴う賃金の増加は決して望ましいとは言えないことから、今後、持続的な賃上げを目指すうえでは、いかに時給を増やしていけるかが議論の的となる。
  • 近年、時給が持ち直している主因は、労働生産性と労働分配率の上昇である。2013年以降、労働生産性が資本装備率や付加価値率の上昇によって急速に持ち直したことや、2018年以降、労働分配率が景気悪化に伴う循環的な要因によって上昇したことが押し上げにつながっている。
  • 労働分配率は景気動向に左右されることから、持続的な時給の上昇には労働生産性の上昇が不可欠である。実質ベースで見ても、日本経済は交易条件の悪化によって賃金が押し下げられやすいため、労働生産性の引き上げの重要性は欧米諸国と比べても顕著である。
  • 労働生産性は需要に依存して決まる面があるが、近年は設備の拡大・高品質化(資本装備率の上昇)や経済活動の高付加価値化(付加価値率の上昇)が押し上げに寄与するなど、企業による積極的な設備投資やビジネスの高付加価値化によって新たな需要が掘り起こされることで上昇してきた面もある。成長と分配の好循環の実現を目指す岸田政権にとっては、今後もそうした企業による積極的な取り組みが進むような環境を整え、さらにはそれを後押ししていけるかが政策的な課題になると考えられる。

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