トルコ経済の現状と今後の注目点~異例の金融緩和のもとで景気は拡大、しかし、副作用も顕在化~

2023/03/28 堀江 正人
調査レポート
海外マクロ経済
変化を捉える【経済】
  • トルコ経済は、2018年後半からの景気後退と2020年前半のコロナショックという2つの逆風を乗り越え、2020年後半以降、景気拡大を続けてきた。しかし、景気は足元で減速しており、また、過度な金融緩和政策の副作用として、通貨安、高インフレなどの歪みも顕在化している。
  • トルコでは、今年2月初頭に南東部で大地震が発生し、極めて大きな被害を受けた。ただ、今回の大地震がマクロ経済面に与えるダメージは、かつて経験した地震や金融危機の際のショックに比べれば、限定的と見られる。今回の震源地であるトルコ東南部地域は、経済発展が遅れ、工業生産額や輸出額は少ない。こうしたことから、今回の大地震によってトルコの経済成長率が大幅なマイナスに陥るような事態は考えにくい。ただ、震災復興支援などで財政支出が膨張し、それが、今後の経常収支や為替相場に影響を与える可能性がある。
  • トルコの景気拡大をもたらした最大の要因とは、通常では考えられないような異例の金融緩和政策であった。インフレ率が急上昇する中、中銀は利上げに踏み切るどころか、予想外の利下げに踏み切り、これが、通貨安やインフレを加速させる一方で、インフレヘッジのための個人消費を煽るなどして、経済成長につながった。つまり、エルドアン政権の経済政策とは、通貨や物価の安定を犠牲にしてでも経済成長を追求するものだったと言える。
  • 前述のトルコ当局による異例の金融緩和政策は、景気を押し上げるとともに、株価を著しく上昇させた。トルコの株価は、2021年10月以降、急騰し、その後の1年間で3倍以上に値上がりして、インドやブラジルをはるかに上回る上昇率となった。ただ、この株価急騰は、経済のファンダメンタルズの堅固さによるものではなく、異例の金融緩和政策がもたらした副作用として株式市場への資金流入が起きたことが大きな原因であった。
  • トルコ経済における2000年代以降の主要な懸念要因のひとつが、経常赤字の拡大である。トルコの経常赤字の大きさは、国際金融市場で大きなリスクファクターと認識され、新興国通貨への下落圧力が高まる局面では、トルコは「フラジャイル」な国として真っ先に通貨売りの対象になるケースが多く、通貨リラの安定性確保という点で、経常赤字は大きな問題となっていた。
  • 経常赤字や通貨安が慢性化しつつあるトルコにとって、懸念すべきリスク・シナリオは、外貨繰りが困難になり対外債務返済に支障をきたしてデフォルト状態に陥ることである。短期対外債務残高を外貨準備で割った値を、主要な新興国間で比較してみると、トルコは他国を大きく上回り、しかも100%をはるかに超えている。すなわち、トルコは、短期対外債務を直ちに全額引き揚げられたと仮定した場合、保有する外貨準備を全部使っても到底返済し切れない状況であることが示されている。
  • 大地震で大きな被害を受けたとはいえ、トルコの経済成長ポテンシャルの高さは損なわれていない。また、トルコは、市場としても、EU・中東・北アフリカへのゲートウェイとしても魅力が高い。トルコ経済は、外国からの投資流入に支えられつつ、今後も成長を期待できそうであるが、そうしたシナリオを阻害するリスクファクターであるマクロ経済面の脆弱性を改善することが大きな課題となろう。

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