南アフリカ経済の現状と今後の注目点~ アフリカを代表する新興国だが、経済の低成長が長期化する恐れ ~

2023/06/12 堀江 正人
調査レポート
海外マクロ経済
  • 南アフリカは、アフリカ大陸で唯一のG20参加国であり、新興経済大国群「BRICS」の一角を占める。南アフリカは、プラチナなど豊富な鉱物資源を有し、また、アフリカ随一の工業国でもあり、さらに、インフラも欧州並みに整備されている。ただ、南アフリカの経済成長率の推移を見ると、2000年代に高めだった成長率が2010年代以降は低迷しており、低成長国に陥りつつあることが懸念される。
  • 南アフリカ経済の2000年代半ばの高成長は、資源価格上昇を背景とした、雇用・所得環境の改善、通貨高、株価上昇による資産効果などによる個人消費拡大が主因だった。また、2003年から2006年まで続いた低金利と民間銀行による低所得層向け融資拡大も、個人消費拡大を支えた。南アフリカの景気が2010年代以降低迷傾向に陥った主因は、個人消費が大きく鈍化したことである。景気は、2020年のコロナショックで大きく悪化したが、2021年に急回復し、2022年も景気回復傾向は続いた。しかし、インフレ加速による中銀利上げや、計画停電の深刻化、大規模洪水被害などより成長率は低い伸びである。
  • 南アフリカの個人消費が2010年代以降低迷している背景の一つに、家計の過剰債務問題があると見られる。金利が低かった2000年代半ばに家計の借入れが増加し、それが個人消費拡大を後押ししたが、その結果、個人消費拡大の主役であった黒人中間層が過剰債務状態に陥った。家計が過剰な負債の調整を終えるまで、個人消費の停滞が続きそうな情勢である。
  • 個人消費低迷の背景として、雇用環境が非常に悪い点も見逃せない。南アフリカの失業率は、足元で30%を超えるが、その原因は、人口の8割を占める黒人の失業率の高さである。逆に言えば、黒人の就労を促進すれば、個人消費を押し上げ経済成長率を高めることが可能であり、それが、今後の経済成長戦略の中核であると言える。
  • 南アフリカで企業活動を停滞させるほどの深刻な問題となっているのが、電力セクターのトラブルである。南アフリカの発電所は設備の老朽化で稼働率が低下しており、停電が頻発している。発電設備の更新を進めないと、停電問題が長期化する恐れもある。
  • 南アフリカの通貨ランドは、2013年頃から、米国の金融緩和終焉観測浮上に伴う新興国から米国への資金還流や南アフリカの慢性的な経常赤字への警戒感から、下落が進んだ。コロナショック終焉に伴って一旦回復したランドも、2022年には、停電頻発などがマイナス材料となって下落に転じた。足元のランドの為替相場は、アパルトヘイト終焉後に黒人政権が発足した30年前の1/5にまで下落している。
  • 南アフリカの経常収支は赤字が慢性化しており、それが、国際金融市場での通貨ランドの売りにつながっていた。最大の輸出品目であるプラチナの価格低迷や、第2位の輸出産品である石炭の今後の需要先細り懸念などから、経常収支が中長期的に改善しない恐れがある。
  • 日系企業のアフリカ大陸における国別拠点数を見ると、南アフリカが飛び抜けて多い。南アフリカの大きな魅力は、今後の経済発展が期待される広大なアフリカ大陸へのゲートウェイとして利用できる点にある。さらに、南アフリカ企業と組んでサブサハラ・アフリカ市場攻略を狙う戦略も有効と考えられることから、日本企業にとって、南アフリカの利用価値は今後も高いと考えられる。

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